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2. Set
怒涛の特講後のお昼は、同じ元サッカー部マネ兼親友で、隣のクラスの前橋 由奈と駅前のファストフード店で落ち合った。
朝の出来事は、彼女から大いに喝采を浴びた。
「由奈、声大きい」
諌める私に、炭酸飲料の向こうで由奈が笑う。
「推しを見るだけの二年間。遂に同クラ、しかも今月は席も隣になったのに、挨拶のみの日々。それを思えば、今朝は大躍進でしょ」
「推しじゃなくて憧れ」
そう、高良君は私の憧れだ。180cm超の恵まれた体格と童顔とのギャップもさることながら、学業は常にトップクラス、厳しいと評判の陸上競技部所属と、文武両道を地で行く。しかも、高校から始めた三段跳で今年一躍ブレイクし、この種目で我が校初の全国大会出場を叶えた逸材でもある。
これまで接点がほぼ無く、遠目に眺めるだけだったその彼と、あんなに長く(当社比だけど)話せる日が来ようとは! 確かに早起きは三文の徳だ。
「特講は同じクラスなんだし、勉強以外も頑張れ」
「特講だけで必死の私に、何を頑張れと?」
私が勉強以外を頑張っても意味がない――出かかった自虐を飲み込んで、私は大袈裟に肩を竦めた。
※ ※ ※
昼食後は塾へ行く由奈と別れ、私は学校に戻った。今日は教室で勉強しよう。
二階から三階へと続く階段に足をかけたところで、下りてくる一人の生徒と目が合った。黒髪の美しい、クラスメイトの風原 冬美ちゃんだ。軽く笑って手を振れば、彼女も同じように応えてくれた。
「風原ちゃん、どこ行くの?」
「職員室。先生に質問あって。橘さんは?」
「私は、教室で明日の予習」
「教室……」
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