2. Set

2/3
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 ふと、風原(かざはら)ちゃんが何やら考える仕草を見せた。 「風原ちゃん?」 「うん、良いと思う。多分、教室には殆ど誰もいないし」 「そう、ありがと」  風原ちゃんの涼し気な笑顔に癒された私は、軽い足取りで階段を上がる。  教室(3−5)の戸口は開いていた。  教室は驚く程静かだった。他のクラスとは大違い。  理由はすぐに知れた。グラウンド側の窓際の列、後ろから二番目の席の、うず高い影だ。  高良(たから)君が寝ていた。   普段から休み時間中はよく寝る彼だけど、今日は朝練に特講でお疲れなんだろう。他のクラスメイト達は、そんな彼に遠慮して教室を出たのかもしれない。  風原ちゃん、そうと知ってたら教えてくれても――否、高良君が私の憧れだと、彼女は知っている。これはワザとだ。  私も別の場所に行こう。  私は荷物を取ろうと自分の席に近づく。足音よりも大きい心音が高良君を起こさないか、気が気じゃない。  席に着いた時、高良君はまだ寝ていた。机に広げた英語教材の上で、自分の腕を枕にこちらを向いている。伏せられた睫毛が長い――そこまで考えて、私は自分が意外と高良君に近づいていたことに気付いた。  反射的に一歩下げた脚が、机の端にぶつかる。ガタっと大きな音がした。  その場で固まった私の前で、高良君が目を擦りながら身を起こす。 「橘、さん?」  寝起きでいつもより掠れたハスキーボイスが、私の名前を紡ぐ。そのざらつきに胸が高鳴る。  沈黙する私の前で、高良君がベリーショートの髪に手をやる。  その目が、ハッと見開かれた。 「あれ、俺寝てた?」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!