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ふと、風原ちゃんが何やら考える仕草を見せた。
「風原ちゃん?」
「うん、良いと思う。多分、教室には殆ど誰もいないし」
「そう、ありがと」
風原ちゃんの涼し気な笑顔に癒された私は、軽い足取りで階段を上がる。
教室の戸口は開いていた。
教室は驚く程静かだった。他のクラスとは大違い。
理由はすぐに知れた。グラウンド側の窓際の列、後ろから二番目の席の、うず高い影だ。
高良君が寝ていた。
普段から休み時間中はよく寝る彼だけど、今日は朝練に特講でお疲れなんだろう。他のクラスメイト達は、そんな彼に遠慮して教室を出たのかもしれない。
風原ちゃん、そうと知ってたら教えてくれても――否、高良君が私の憧れだと、彼女は知っている。これはワザとだ。
私も別の場所に行こう。
私は荷物を取ろうと自分の席に近づく。足音よりも大きい心音が高良君を起こさないか、気が気じゃない。
席に着いた時、高良君はまだ寝ていた。机に広げた英語教材の上で、自分の腕を枕にこちらを向いている。伏せられた睫毛が長い――そこまで考えて、私は自分が意外と高良君に近づいていたことに気付いた。
反射的に一歩下げた脚が、机の端にぶつかる。ガタっと大きな音がした。
その場で固まった私の前で、高良君が目を擦りながら身を起こす。
「橘、さん?」
寝起きでいつもより掠れたハスキーボイスが、私の名前を紡ぐ。そのざらつきに胸が高鳴る。
沈黙する私の前で、高良君がベリーショートの髪に手をやる。
その目が、ハッと見開かれた。
「あれ、俺寝てた?」
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