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口元を拭った高良君の頬が、赤く染まる。私は頷く振りをして俯いた――可愛い仕草と表情に、私の顔がにやける。
「運動して勉強してお昼食べたら眠くなるよ――あれ?」
私の気を引いたのは、彼が下敷きにしていた大量の英語の白紙プリントだ。
「それ、特講の課題?」
顔を上げて小首を傾げれば、高良君が頷く。
「ああ。最後三日間の」
「え、何で?」
「大会と被って欠席するから。他の教科のもある」
なるほど納得だ。でも、この量を日々の課題と並行してやるのは……。
「大変そうね」
「かなり。英語は苦手だ」
「いや、高良君のレベルで苦手とか」
「英語はいつもギリ六〇点台」
高良君の固い表情は、憮然としているようにも困り果てているようにも見える。英語が苦手なのは本当らしい。
と、そこで私はハタと気が付く――私、いつの間にか高良君と普通に会話してる!
内心で沸いていると、高良君が話を振ってきた。
「橘さんは、英語得意だよな」
「うん、まあ」
物理をカバーして、総合点で理系成績上位に滑り込む程には、英語は得意だ。
「それが如何したの?」
「俺が特講出てる間だけ、昼飯の後に英語を教えてほしい」
「ええっ?!」
高良君の発言は、爆弾だった。今の会話だけでイッパイイッパイな私が、勉強を教える? 彼に?
「いやでもあの適任者は他に」
アワアワする私に対し、表情の変わらない高良君は淡々と追い打ちをかける。
「俺は物理を教える」
憧れの人からの申し出は、顔だけなら「可愛い年下の真剣なお願い」という構図で。
しかも、天秤の反対側に載るのは物理。
気が付けば、私は首を縦に振っていた。
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