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3. Start
私は高良君に英語を教え、物理を教えてもらう。期間限定のタスクは、私の勉強への集中を大いに高めてくれた。
勉強会は昼食後、高良君が部活の夕練に行くまでの約二時間、教室で開かれる(連日この時間帯は、何故か教室に人がいない)。内容は、最初に英語、次に物理。特講の課題と予習が中心。
「ここは、このwhichが――」
「ああ、そう読むのか」
視覚はテキストやプリント、聴覚は互いの声と文字を書く音でいっぱいだ
「まず、光路長を計算する」
高良君の説明は簡潔で早い。私は必死にノートを取る。
「――で、さっきの式に代入する」
「凄い、答えが出た。物理って、こんな短時間で解けるのね」
勉強会の効果は、すぐに出た。
塾や家で取組む物理の正答率が、格段に上がった。おかげで他教科に割ける時間が増え、たった数日で総合的な学力も伸びた。特講と高良君様々だ。
風原ちゃんには、「橘さん見てると、勉強はやれば結果出るって思える」とまで言われた。
そんなわけで、目下、私の勉強へのモチベーションは最大だ。ランナーズハイに似た感覚。作業は増え、頭は常にフル回転だけど、苦ではない。
そんな状況に物申したのは、由奈だった。
「小説の主人公が、恋人に『勉強と自分、どっちが大事』って聞く気分だわ」
「何それ」
「だって花純が勉強ばっかで、電話もメッセも減ったから」
確かに、由奈との電話は一週間以上ぶりだった。
「最初に相談した私に『頑張れ』って言ったのは由奈でしょ。だから頑張ってるの。それに、由奈には髙橋 柊斗がいるでしょ」
「勉強の他にも色々頑張れって私は言ったの。あ、柊斗は無理。今度の赤点補習終わるまでスマホ没収らしい。って、そうじゃなくて」
由奈の声音が、真剣味を帯びる。
「一つのことを突詰める姿勢は花純の美徳だけど、やり過ぎは禁物よ。特に今は中学とは違うし、何かあったら」
「大丈夫。勉強では事故らない」
私は笑って答えた。由奈の心配が嬉しかった。
「それに、逆よ」
「逆?」
電話の向こうで、由奈は眉を顰めているだろう。
彼女の優しさに不意に甘えたくなって、私は予定外の自嘲を零した。
「私、勉強に集中しようと必死なの」
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