3. Start

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 助走路を走る。  目指すのは、この先にある踏切板。なのに、どれだけ走ってもそこに辿り着けない。  呼吸が激しくなる。これでは(ろく)な記録にならないだろう。  それでも私は走る。  走った分だけ、白線は遠ざかる。  まるで逃げ水。  これは夢だ。  止まれば良い。  走るのをやめてしまえば良い。  そう思うのに、私の足は止まらない――  久々の悪夢で最悪だった目覚めを引きずり、私は普段より一五分遅れで学校に着いた。  正門を通ったところで、ふと立ち止まる。  高良(たから)君は、朝練中だろうか。  私は(きびす)を返した。向かったのは昇降口ではなく、グラウンド。  陽炎(かげろう)が立つには早いけど、空気は既に暑い。  その熱気とフェンスの向こう側に、グラウンドを走る高良君の姿があった。遠目でも分かる、綺麗なフォームのスプリント。湿度の高い朝の空気を切り裂き、コーナーを一気に駆け抜ける。  それは、今の私には無縁の世界。  彼の姿に見惚れると同時に、私の中で強烈な嫉妬が巻き起こる。 「良いなぁ」  意図せず口から出てきた波長のどす黒さに、私は咄嗟(とっさ)に口元を手で覆った。  その日の午後の勉強会は、淡々とこなすことに腐心した。勉強が身についた感じは全くしなかった。
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