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助走路を走る。
目指すのは、この先にある踏切板。なのに、どれだけ走ってもそこに辿り着けない。
呼吸が激しくなる。これでは碌な記録にならないだろう。
それでも私は走る。
走った分だけ、白線は遠ざかる。
まるで逃げ水。
これは夢だ。
止まれば良い。
走るのをやめてしまえば良い。
そう思うのに、私の足は止まらない――
久々の悪夢で最悪だった目覚めを引きずり、私は普段より一五分遅れで学校に着いた。
正門を通ったところで、ふと立ち止まる。
高良君は、朝練中だろうか。
私は踵を返した。向かったのは昇降口ではなく、グラウンド。
陽炎が立つには早いけど、空気は既に暑い。
その熱気とフェンスの向こう側に、グラウンドを走る高良君の姿があった。遠目でも分かる、綺麗なフォームのスプリント。湿度の高い朝の空気を切り裂き、コーナーを一気に駆け抜ける。
それは、今の私には無縁の世界。
彼の姿に見惚れると同時に、私の中で強烈な嫉妬が巻き起こる。
「良いなぁ」
意図せず口から出てきた波長のどす黒さに、私は咄嗟に口元を手で覆った。
その日の午後の勉強会は、淡々とこなすことに腐心した。勉強が身についた感じは全くしなかった。
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