台風

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 午後3時頃、ここは都内のとある小学校。教室では帰りの会が行われている。生徒は先生の話を聞いている。先生は真剣な表情だ。生徒はじっと見ている。 「起立、礼!」 「さようなら」  生徒は一斉に教室を出て行く。先生はその様子を見ながら、職員室に戻る。生徒は楽しそうな表情をしている。  その中の1人、海斗(かいと)はこの近くに住む小学4年生だ。勉強よりもテレビゲームの好きな、今どきの小学生といった感じだ。  帰り道、海斗は友達の拓真(たくま)としゃべりながら帰り道を歩いている。拓真もまた、テレビゲームが好きで、よく拓真と遊んでいる。 「明日、台風が来るらしいよ」  海斗も拓真も知っている。天気予報によると、明日は台風が接近するようだ。なので、明日は休校になるかもしれない。2人は休校になってほしいと願っている。 「ふーん。明日、休みになればいいのにね」 「僕もそう思うよ!」  2人とも、明日が休校になるかもしれないと知ると、機嫌がよくなった。 「だよねー」  拓真は笑みを浮かべている。明日、休校になったら、1日中ゲームをして遊ぶんだ。 「明日は休みにならないかねー」  海斗も拓真と同様だ。1日中ゲームをして遊びたいな。 「海斗くんもそう思ってる?」 「うん。もちろんだよ。好きなテレビゲームができるんだよ」  テレビゲームの事を考えるだけで、2人とも気分が軽くなる。 「そうそう! その気持ち、わかる!」 「でしょ?」  交差点に差し掛かった。海斗は左に行く。一方、拓真はまっすぐ行く。 「じゃあね、バイバーイ!」 「バイバーイ!」  2人は互いに手を振り、交差点で別れた。海斗は思わずスキップをしてしまった。明日、台風が来て休みにならないかな?  数分歩いて、海斗は家に帰ってきた。家には母、恵(めぐみ)がいる。恵はワイドショーを見てのんびりしている。いつもの風景だ。ワイドショーの内容は、台風の話題が多めだ。台風が接近すると、たいていワイドショーもこれで持ち切りだ。 「ただいまー」  海斗の声を聞いて、恵は玄関にやって来た。恵はほっとしている。今日も無事に帰ってきた。それだけでも嬉しい。 「おかえりー」 「ニュース見てるの?」  海斗はテレビから流れるニュースが気になる。台風が気になってしょうがないようだ。 「うん」  海斗は2階への階段に向かった。これから自分の部屋に行くようだ。 「明日は台風だろうなー」 「そっか。ニュースをしっかり見ておかないと。場合によっては、途中から登校になるかもしれないから」  と、恵は一旦リビングに戻り、テレビを消した。これから出かけるようだ。買い物だろうか? 「そうね。じゃあ、買い物に行ってくるね」 「行ってらっしゃい」  恵は鍵をかけて、家を出て行った。それを見て、海斗は2階に向かった。目的はもちろん、ゲームだ。  海斗は2階にやって来た。2階はカーテンが閉じていて、暗い。海斗は部屋の明かりをつけた。 「さてと、ゲームを始めるか」  海斗はテレビゲームを始めた。果たして明日は、台風が来るんだろうか? 明日は1日中、テレビゲームができるんだろうか?  しばらく経って、恵が帰ってきた。玄関のドアが開く音を聞いて、海斗は部屋から出た。 「ただいまー」 「おかえりー」  恵はダイニングに行き、買ってきた物を取り出した。明日、台風が来るかもしれないという事で、カップ麺も買ってある。カップ麺はお湯があればすぐできるので、とても助かる。 「明日の食料も買ってきたのよ」 「ふーん。カップ麺も買ってきたんだね」  海斗はカップ麺に興味津々だ。たまに食べるが、なかなかおいしい。 「うん。あんまり外に出たくないしね」 「2階に行くね」  海斗は再び2階に向かった。テレビゲームの続きをするためだ。  夜になって、カレーのいい匂いがしてきた。その匂いで、海斗はわくわくする。今日はカレーだ。楽しみだな。 「ただいまー」  父、正二郎(しょうじろう)が帰ってきた。正二郎も明日の台風を気にしている。このままでは仕事が休みになるんじゃないかと思っている。休みになったら給料が減ってしまう。家を支えていかなければいけないのに。 「おかえりー。今日はカレーよ」 「そっか」  正二郎は匂いを嗅いだ。やはり今日はカレーのようだ。正二郎の声を聞いて、海斗も1階にやって来た。そろそろ晩ごはんだ。 「明日は台風が来るかもしれないんだね」 「ああ。うちの職場も休みになるかもしれないんだよ」  正二郎は心配している。だが、海斗は機嫌がいい。明日が休みになるかもしれないからだ。 「大変ね。仕事が減って、給料も減るんだよ」 「ふーん。僕は休校になるからいいと思ってるよ」  それを見て、正二郎は笑みを浮かべない。どうしてだろう。海斗は首をかしげた。 「そうだな。でも、そう言っていられるのも学生までだぞ」 「わかってるよ」  海斗はわかっているようだ。こうして台風が来て、笑っていられるのも、今のうちだ。  翌日、海斗はいつも通りの時間に起きた。朝から強烈な風の音が聞こえる。明らかに台風が来ている。恐らく暴風域だろう。海斗は少し笑みを浮かべた。これは休みになるだろう。  海斗は1階に降りてきた。そこには両親がいる。両親は朝食を食べている。 「おはようー。今朝の予報はどう?」 「大雨洪水暴風波浪警報が出てるわ。これじゃあ、学校に行けないね」  両親はため息をついている。どこにも行けない辛さでいっぱいだ。テレビでは、台風情報がくどいほど流れている。よほど一大事なんだろう。だが、海斗はまったく気にしていない。学校が休みになって、1日中テレビゲームができるからだ。 「そうだね」  と、恵は両親の事が気になった。両親は山梨県の山里に暮らしている。台風が来た場合、こっちがもっと気になる。豪雨で土砂崩れがあるからだ。 「お父さんとお母さん、どうしてるんだろう」 「どうして?」  海斗は不思議に思った。どうして祖父母を気にしているんだろう。台風が来る事で、心配な事がほかにもあるんだろうか? 「おじいちゃんとおばあちゃんの家、山里にあるでしょ? 避難勧告が出る事もあるのよ」 「そんな・・・」 「危ないのよ」  海斗は驚いた。こんな事になるなんて。喜んでいる自分とは正反対だな。 「ごちそうさま」  海斗は朝食を食べ終えると、リビングに向かい、くつろいだ。母は食器を洗い、父は歯を磨きに行った。  洗面所に向かう途中、海斗は窓から外を見た。雨風が強い。明らかに台風の天気だ。これでは休校になるだろう。 「外は大変だね」 「うん。これじゃあ、登校できないよ」  海斗は横を向いた。そこには恵がいる。食器洗いを終えて、リビングに来たようだ。 「でしょ?」 「歯を磨いたら、2階に行くね」  海斗は立ち上がった。2階に行くようだ。ニュースばかり見ていてもしょうがない。歯を磨いて2階に行こう。 「うん」  海斗は歯を磨くと、2階に向かった。恵はその様子を見ている。これからニュースから目をそらさないようにしよう。11時までに警報が解除されたら登校になる。その場合、知らせなければならない。  だが、警報は11時になっても解除されない。これで今日の休校が決まった。11時を回ったのを知って、海斗は喜んだ。これで1日中遊べる。  そこに、恵がやって来た。11時を回ったのを知らせに来たようだ。 「11時になったんだって」 「うん。もうこれで今日は休校だね」  海斗は笑みを浮かべた。恵も笑みを浮かべている。2人とも喜んでいるようだ。 「よかったね」  と、電話が鳴った。恵の両親からだろうか? 何かあったんだろうか? 「あれ? お父さんからかな?」  恵は受話器を取った。恵は不安そうだ。両親に何かがあったら心配だ。 「もしもし。あ、はい。避難勧告が出て、公民館にいるのね。わかりました」  恵は受話器を置いた。話からして、恵の両親に何かがあったようだ。海斗は不安そうな表情になった。 「どうしたの?」 「おじいちゃんとおばあちゃんの家、避難勧告が出たんだって」  話によると、母の両親の家のある集落に、避難勧告が出て、村の中心にある公民館に避難したそうだ。公民館には避難指示の出た集落の住民が集まっていて、大変らしい。 「そうなんだ。台風が来て、僕は喜んでるけど、おじいちゃんやおばあちゃんは大変なんだね」  自分は台風が来て喜んでいるけど、困っている人々がいるんだ。これは素直に喜べないな。今まで喜んでいたのに、それを聞いて海斗は考えを改めた。こんな時に、喜んでいる場合じゃないな。
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