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社長オススメトレーというのは、間伐材で作ったという地元企業の新製品だった。木目調のトレーというのは既製品でもあるが、本当の木を使ったものは珍しい。難があるとすれば、コストの面と「木」という事の弊害だった。
芝浦蒲鉾は、老舗の有名店で、つい最近農林大臣賞を受賞している。それにのっかって新製品も出すだろうから、そこが狙い目かもしれない。
芝浦蒲鉾との話は、基本的に里見が行う。松谷は、車を運転できるからアシ兼助手というところだ。
芝浦蒲鉾は今まで村上の担当だった。里見が引き継いだのは知っているが、村上の後は辛そうだ、と松谷でも思う。里見が硬い顔をしていたのはそのせいだろうか。
けれど、松谷の心配をよそに里見は慣れた足取りで芝浦蒲鉾社内を闊歩していく。もう少し、怯むかと思ったのだが。どうやら、マメに顔を出しているらしかった。
芝浦蒲鉾の担当は、いかにも酒大好きです、というような豪快な中年男性だった。里見の顔を見て、面白そうに笑う。
「またあんたか、良く来るな」
「すみません。今日はオススメしたいものがありまして」
「ようやく仕事か? いいよ、聞く」
良く来るのに、ようやく仕事? 今までは何の為に来ていたのだろう。見守る松谷の前で、里見はトレーを取り出して、一通りの説明を始めた。担当は、半分くらい興味なさそうに聞いている。こういう態度はよくある事だ。ここからが仕事といってもいい。
木のトレー最大の問題はコストで、それから若干残る香りだ。それがあって、木の香りが不自然でない蒲鉾屋に目をつけたのだろう。農林水産大臣賞のこともあり、新製品の開発も進んでいるはずだ。注目されている今、インパクトがある木のトレーは売りになる。
松谷なら、その方向で営業をする。
けれど、里見の言葉は予想しないものだった。
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