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「御社では熱心にエコロジーに取り組んでおられるのですね」
え、と目を丸めたのは松谷だけでなく、担当も同じだった。別段、エコを売りにしている企業というイメージは、松谷にはまったくなかったのだ。
「いや、特に企業として大きな事はしてないぞ」
「けれど、社員の中では取り組んでおられるように思えますが。夏には打ち水をしていたのを見ました。ランチ時には皆さん、エコバック持参ですね」
そんな事、何故知っているのだという表情で、担当は苦笑したようだった。
「よく見てますね」
「いえ、たまたまです」
もしかして、そういう事を見ながら、芝浦蒲鉾へ通っていたのだろうか。だとしたら、随分狡猾だが、とても里見がそういうタイプとは思えない。
「きっと、普段の生活へも浸透しているのですね。社長自らですか?」
営業中だというのに、里見はいつもと同じ笑わない男のままだ。それでも、担当は少しずつ、里見の話に興味を持っていっている。外から見ている松谷には、それがはっきりと見えるようだった。
「……ですので、御社のエコロジー精神とこの製品は、合うと思うのです」
真剣な顔で語る里見に、やがて担当は頷くのだろうと松谷は思った。
松谷の思った通り、かなり前向きな検討をしてくれる事になりそうな芝浦蒲鉾を出たとき、ようやく息つぎができたように、里見は大きな大きな溜息をついた。とても疲れたように前髪を撫で付けて、ちらと松谷を横目で見る。
「お疲れ様だったな」
「いえ、俺は何もしてないですから。あの、里見課長は、この事も含めて芝浦蒲鉾にマメに通っていたんですか?」
「まさか。村上の後釜が俺だから、少しでも印象を持ってもらおうと思って、用もないのに来ていただけだ。その時少しずつ見えたものがあっただけだ」
用もないのにって。そんな事、絶対に松谷はしない。時間の無駄だし、マイナスに働く事もあるだろう。
「課長凄いですね」
俺には、とてもできない。素直にそう気持ちを伝えたのだが、里見は素直に受け止めてくれた訳ではなさそうだ。
「そんなわけないだろう」
どこか恨みがましく聞こえたその言葉の意味を問うより先に、里見が続ける。
「凄いのは、村上や君のような人だろう。初対面でもするりと相手に入っていける。俺はそんな風にできないから、少しずつ積み重ねるしかない」
もし。もし、聞き違いでないなら、さらっと褒められた気がする。途端に、笑い出しそうに嬉しさが体中を駆け抜けていく。
凄いって。
零れる笑みを隠しながら、ふと気付いた。
――なんか、褒められたの俺だけじゃないよな
「村上」と並べられた。
それは光栄な事で、喜ぶところだ。里見と同期でありながら、村上はもう部長だ。尊敬をしているし、凄いとも思っていて嫌いじゃない上司だ。なのに、何故一瞬苛ついてしまったのだろう。村上、と里見がそこだけ柔らかい声で呼んだのも嫌だった。
「ありがとうございます」
素直に礼を口にしたものの、ざらりと砂を噛んだような不愉快は、暫く消えそうになかった。
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