音痴な上司の攻略法

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◇  松谷徹が川本産業に入社してから、もう三年になる。川本産業は、主に発砲トレーなどを扱う卸し会社だ。主な取引先はスーパーや飲食店になる。スーパーの惣菜を入れるトレーなどの使い捨て容器、飲食店のテイクアウト用容器など、さまざま扱っている。  小さな会社だが、それゆえにゆるいところも、融通がきくところもあり、松谷は気に入っている。よく言えば、アットホームというところだろうか。何より、事務の女子が可愛いのがいい。  面接を担当している専務が、自分の好みで選考しているのではないかというのは、社員の間では口には出さない衆知の事実だ。それを注意できるはずの社長は半分隠居気分なのか、社内にはあまり出てこない。だから、社内にゆるい空気が漂っているのかもしれなかった。  松谷は営業兼配送を担当しているが、基本的にはルート営業なので、新規開拓をする営業よりは楽なのだろうと思っている。それなりに働いて、それなりに楽しければいい松谷としては、向いている会社かもしれないと自覚していた。  去年彼女と別れてからは、決まった相手はいないが、可愛い事務の女の子との飲み会は増えているし、そろそろ動きだしてもいいかな、などとのんびり構えている時だった。その可愛い事務員を束ねていた総務課長が、突然営業に異動になったのは。  異動とはいっても、デスクの位置が文字通り移動するくらいだが、突然営業になった課長としては、かなり大変に違いない。  それが、里見だった。
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