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里見のことは勿論知っているし、仕事上会話した事はある。けれど、親しかった訳でもないし、静かな人だな、くらいの認識だった。
確か、松谷より十歳は年上だったはずの里見は、いつも今時いない程にぴっしり七三わけの髪型で、地味なグレーのスーツを着ている。物静かで、おとなしい里見は、どうみても営業向きではなかった。
それまで営業課長だった村上は総務部長へと昇進したが、それこそ営業向きの明るく調子のいい男だったのに。
そういえば、村上は里見と同期だと言っていた気がする。
何故、こんな人事が行われたのかは不明だが、人事権は専務が握っているので、聞くのもはばかられた。専務は社長の息子で、次期社長だ。この会社に一つ欠点があるとすれば、この専務だと、松谷はコッソリ思っている。接している相手によって、露骨に態度の変わる分かりやすい男で、めんどくさい。
とはいえ、今のところ松谷に実害はない。
それよりも、里見が直属の上司に変わって営業の雰囲気が変わった事の方が重要だった。
里見は基本、いつでも無表情だ。事務の女の子達が、こっそり「笑わない男」と呼んでいるのを聞いた事もある。感情の浮き沈みが激しい前上司の村上と比べると、余計顕著だが、とにかく物静かで、それから真面目だった。
ミスを起こした時も、大きな声で怒鳴ったりせず、淡々と正論を語られると、こちらとしても黙って頭を下げるしかない。
なんとも、やりにくい相手だった。
正直、苦手。
それが松谷の里見への感情だったのだけれど。
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