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松谷は、なるだけ何でもないふりで呟いた。
「課長は、専務とカラオケ行った事あるんですか?」
「いいや、誰ともない。いつも断っている」
カラオケを断る里見は歌が上手くないに違いないと睨んだ専務があえて一番目立つ一番手に里見を指名したのだろう。これは確実に嫌がらせだ。
「専務と、仲悪いんですか?」
直球過ぎると自覚はあるが、里見は誤魔化すように気のない相槌をうっただけだった。
「でも急に営業になったり、最近おかしいですよね? 何かあったのかなーって」
「……君は、事務の中内さんと、その、仲がいいのかな」
唐突な質問の意図が分からず目を細めた松谷だが、今は里見の様子を見てみたい。事務の中内とは特に仲が良いという訳ではないが、よく喋る方だ。
「普通ですけど」
「付き合っているのではないのか?」
「いいえ?」
何故、そんな事を聞くのだろう。大体中内は、この前まで里見の部下だったのだから、松谷よりも里見の方が、彼女には詳しいはずだ。
黙って様子を見る松谷に、里見は困ったような顔をして呟く。
「いや、その、専務が」
なんとなくピンときた。
専務のセクハラは、事務の間では有名な話らしい。それこそ松谷も、中内などから愚痴を聞かされた事がある。主はボディータッチなのだとかなんとか。面倒だから、無視しているという女子社員は強い。そして他の社員は知らぬふりをしている。
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