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ダリアが入口の扉に向かう。
私は部屋の中央に立ったまま、両手を広げて呪文を唱える。
「整う!」
これですべての用が足りるのだ。
寝間着は私から脱げて飛んでいきながら洗濯を終えて乾かされて畳まれた状態になる。壁に掛けてあった制服が飛んできてシュバッと私に着られる。ボタンも瞬時に止められ、胸元のリボンがスルリと結ばれる。
靴下と靴は足を上げないと履けないから交互に足を上げる。そうしたらやっぱり勝手に足がスポッと入って、編みひもも瞬時に仕上がった。
ついでに部屋も綺麗になる。床も窓ガラスもピカピカに磨かれ、2つあるベッドも綺麗にメイキングを終える。見た目だけではなく、シーツもクリーニング済みの状態になっている。
「あたしのベッドも整えてくれてありがとう。毎度思うけれど、エディの魔法はほんとに完成度が高いっていうか、学生のレベルじゃないよね」
ダリアは一度振り返って感想を言ってから、ドアを開けて公爵令嬢を迎え入れた。
「おはようございます、ローズマリー様」
「ごきげんよう。ダリアさん、エーデルワイスさん。……あら、エーデルワイスさんはお支度の途中でしたの?」
ドアの向こうでローズマリー様は可愛らしく小首をかしげた。
支度は全部……って、あれ? 髪がまだだった。ポニーテールにするか三つ編みにするかで迷っていたから頭髪には魔法が作動しなかったみたいだ。
私の魔法は完璧、などと油断していたら、たまにこういうポカをやらかす。
出来上がりをしっかりイメージすることが大事なのだ。
「ローズマリー様、昨晩はありがとうございました。髪を結んできますので、お待ちいただけますか? それと私のことはエディでいいですよ」
「まあ」
私の言葉に彼女は少し嬉しそうに頬を上気させる。
「ではエディさん。わたくしのこともロージィと呼んでくださる?」
気さくなお姫様だ。
「もちろん喜んで、ロージィ様」
ダリアがうらやましそうに私たちのやり取りを見ているのに気づく。ダリアの名前は短いので、愛称で呼ばれることがないのだ。
なので「ダリアのことはダーちゃんと呼ぶことにしようか?」と提案したら「ダサいので却下」と返された。
洗面所に走り込もうとした私を、ローズマリー様は呼び止めた。
「お待ちになって、エディさん。わたくしの侍女にエディさんの髪を整えさせてくださらない? きょうはせっかくのエディさんの晴れ舞台ですもの。綺麗にして差し上げたいわ」
言われて廊下を見やると、後ろに侍女さんがひっそりと控えている。
美麗なハーフアップに整えられたロージィ様のうるつや髪は、なるほど侍女さんのスゴ技によるものらしい。
ほとんどの学生は侍女や侍従を連れて入寮することはできない。でも王族だけは例外だ。二人部屋を占有して侍女や侍従と一緒に使っている。
「どうぞ侍女さんも部屋の中へ。私はいつものポニーテールでよいので侍女さんのお手を煩わせることはないです。時間もないですし」
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