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ばさっ、ばさっ。
ドラゴンの翼が音を立て、耳元を風がかすめる。
夕闇に染まる街に、オレンジ色の明かりがぽつぽつ灯る。
「この子、新しく来た子?」
「そう」
リエルは片手でドラゴンの首をなでる。
「いい子だよ。すぐ慣れた。お父さんの手を借りなくてもよさそう」
「ふうん」
お父さんはドラゴンテイマー。竜使いともいう。野生のドラゴンを預かっては、人に慣れさせる訓練をしている。リエルはその見習いだけど腕がいい。
「みんな、うまくいっててすごいな……」
リエルにつかまる手に力がこもる。
「焦らなくてもいいよ、姉さん。雨の魔法は、必修じゃないんだろ?
他の魔法ができれば進級できるし」
「そうだけど……雨の魔法ならオルガの役に立てるんじゃないかなって」
「……灼熱の魔王を倒すため?」
私はうなずく。
オルガ達の目的は、東の果て、エンケドラ山の最奥にいる灼熱の魔王を倒すこと。溶岩の巨体を持つ魔王と戦うには水の魔法、それも強力な魔法が使えないといけない。
だから、習うのを楽しみにしていて、通過点くらいに考えていたのに。
「早く追いつきたいのに」
「そんなこと考えてたの?」
「う、うん……」
少し責めるような口調に、私はひるむ。
「姉さん、オルガさんには勇者一行がついているんだから大丈夫だよ。
危険なところなんだ。遊びじゃないんだよ」
「そうだけど……」
遊びじゃないから、助けたいんだけどな。
しばらくして家が見えて、ドラゴンが急降下を始める。
庭にいるお父さんが私達を見つけて手を振った。
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