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期限
「勇者たちはエンケドラ山にたどり着いたらしい」
夕食の後、お父さんが言った。
「そう、じゃあいよいよ最後の戦いなのね」
片付けしながらお母さんが答える。
「いや、麓で十分に準備を整えるらしい。うちの協会にもドラゴンの増援を頼まれた」
「いやだわ、まるで戦争じゃないの」
「しかし灼熱の魔王は倒さないと。燃やされた町や村はひどい有様だ。放っておいたらいつ侵攻してくるか……」
杖を磨いていた私は、顔をあげる。
「お父さん、準備ってどのくらいかかるの?
一年?」
「そんなにはかからないよ。一カ月もしないうちに決着が決まるだろう」
もちろん勇者一行が勝つんだよ、とお父さんは慌てたように言う。
「お父さんのドラゴンに乗っていったら、すぐだよね?」
「そりゃあ、速いけど……なんだルルリカ、まさか魔王のところに行く気か?」
「ん……ちょっと……聞いてみただけ」
雨の魔法を習得して、ドラゴン乗って。1カ月。間に合うだろうか。
「姉さんはオルガさんと一緒に戦いたいんだって。お母さん止めてよ」
「リエル! 余計なこと言って」
私がにらむと、弟はお母さんの後ろに隠れた。
「僕やだよ、姉さんが危ないところにいくの」
「……そう」
私は肩をすくめた。
ドラゴンを操るときは一人前の顔をするくせに、リエルはこういう甘えん坊なところがある。叱るに叱り切れない。
お父さんがこほん、と咳払いした。
「まぁなんだ、魔法を頑張るのはいいことだルルリカ。でもお母さんやリエルを心配させちゃだめだぞ」
「はぁい」と、私はまったく納得していない声色で答える。
明日は早く家を出て、学校の裏庭で練習しようかな。
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