焦り

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焦り

 学校にいる時間が長くなった。 「雨よ降れ(ラス・スウェーグネン)!!」  この呪文も、何度繰り返したことか。  魔術書も読み返した。雷の魔法や火の魔法は問題なくて、雨の魔法だけがうまくいかない。  放った魔法は、空中に吸い込まれたみたいに消える。 「なんで……」  頭の中、「行ってくるね!」と手を振ったオルガが浮かぶ。不安そうなのに笑顔を作って、私に背を向けて遠くに走っていく。 「もう一回!」  頭を振って、私はまた魔力をためる。  数日後、私は先生に呼び出された。 「ルルリカ・グレンフィルド。そこに座りなさい」 「はい」  先生は向かいに座った。背景には天井までの本棚。圧迫感がある。 「あなた最近帰りが遅いそうね。クラスメイトが心配していたわよ」 「……すみません」 「雨の魔法を頑張っていることは知っています。ですが魔法は必ずしも量をこなせば成功する、というわけではありません」 「魔法使いの血と、精霊の力、それに想いが必要」 「そうです」  先生はうなずき、指を組む。 「教師にあるまじきことを言いますが……雨の魔法試験、合格しなくてもいいのよ。他の教科の成績で十分進級できるわ」 「……」 「何をそんなにこだわっているの」    私は先生の目をまっすぐ見た。 「私、追いつきたいんです、オルガに」 「オルガって……オルガ・ジャレィのこと? あの天才少女の」 「親友なんです」 「……そう」    沈黙が下りる。時計の秒針の音が大きくなる。    そんなの無理よ。  追いつきっこないわ。  そんな言葉が続いたらどうしようと思ったけど、先生は否定しなかった。  考え込む仕草(しぐさ)をする。 「実のところ、雨の魔法がどうして出現しないのか、私も不思議だったの。でももしかして……あなたの焦りが邪魔をして、魔法が消失してしまうのでは?」 「え?」
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