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梅雨真っ只中だというのに珍しく晴れた今日。わたし––井中圭は意を決して我が校のマドンナ兼大人気女優兼彼女の鮫洲冷に別れを切り出していた。というか、もう限界だった。
「え、と。その、皆んなのアイドルの冷ちゃ……鮫洲さんと私みたいなのじゃ釣り合ってないし。だからさ……ね?」
と早口で言い放ち、わたしは踵を返そうとしたのだけれど、意思とは反対にくるりと反転する体。そして眼前に広がる圧倒的美貌。
「…………」
「あ……あにょ、さめ」
名前を呼ぶ隙も与えられずクイと持ち上げられる顎。わぁ、これが俗に言う顎クイかーなんてぼんやりと考えていたわたしは『ふぁんしーあいらんど』を見てしまった子供のように小さく悲鳴を上げた。
「……で、なんでそんな事思ったの?」
聞き慣れたはずのアルトボイスがやけに冷ややかに感じるのは気のせいで……はないですね。はい。これまた見慣れたはずの碧眼は、冷え切っていてわたしにはとても『また俺何かやっちゃいました?』なんて言えそうになかった。
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