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しかし、采鈴は自分が悪いのだと、ふるふると首を振った。
「そのような事情も知らずに軽率なことを言ってしまい申し訳ありません。私は緋色の姫と呼ばれているのに緋色の姫について何も知らないことにもどかしさを感じます」
「貴女は緋色の姫として育てられなかったので何も知らなくて当然です」
武蔵丸は袖を掴む采鈴の手を優しく解きながら采鈴の後ろを見やると、庭園の隅の方に景春が立っていた。武蔵丸と采鈴のやりとりを気にしているそぶりである。
武蔵丸は采鈴と距離を取って話を続けた。
「采鈴様、貴女がすべきことはこの佐島の国を救うことです。そのお力があればきっと成し遂げることができます」
「武蔵丸殿、お待ちください。まだ話は終わっていません」
「後方に若君がいらっしゃいます。私がいては邪魔になるでしょうから、これにて失礼いたします」
采鈴は景春がいると聞いてあからさまに動揺した。会いたいけれど会いたくない。正反対の思いが采鈴の中でせめぎ合っていた。
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