二 伝説の姫

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 翌朝、采鈴が天幕から出ると出入り口のすぐ横に武蔵丸が立っていた。驚いた采鈴は悲鳴をあげそうになったが、武蔵丸が口を押さえたため周囲に声が漏れることはなかった。  采鈴はすぐに武蔵丸の手を振り払った。 「驚かさないでください」 「若君は中にいるのでしょう?」 「ええ。いますけれど何かご用がありましたか?」 「貴女だけが特別だと思わない方がいいです。若君はいつもああなので」  武蔵丸はそう言い捨てると踵を返した。采鈴は慌てて武蔵丸の後を追った。 「あの、いつもああとはどういうことですか?」 「言葉通りの意味です」 「ちょっとその意味がわからないんですが」 「他にもたくさんの女がいるということです。貴女はその中の一人に過ぎません」 「……なんでそんなこと言うんですか」  采鈴が涙を見せても武蔵丸は表情を変えない。采鈴がうずくまっても優しく慰めてくれるわけでもなかった。 「貴女が若君に期待しないよう忠告したまでです。もう少しで出立しますのでご用意ください」  采鈴が泣き腫らして天幕に戻ると、景春は何も聞かずただ采鈴を抱きしめた。慈悲深く思慮深く、必死で采鈴のことを元気付けようとした。武蔵丸の言うような遊び人だと到底信じられないと采鈴は思った。
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