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まもなくして景春一行は都に入った。
小さな部屋の世界では体験することのない何層にも連なったにおいが采鈴の鼻を刺激する。到底いい匂いだと言えないようなものから、景春が纏うお香の香りまで、世界には信じられないほどのにおいがあることを知った。
気分が悪くなった采鈴が俯いていると、同じ馬の手綱を握る景春が「前を見よ」と声高に言った。
数えきれないくらいの顔が采鈴の方に向いていた。
采鈴と景春を乗せた馬を先頭に景春一行の馬たちが群衆をかき分ける。采鈴は頭がくらくらするほど人の多さに驚いた。
「緋色の髪ぞ」
「あの女の髪は緋色ぞ」
「噂は本当だったんじゃ」
「ただの伝説ではなかったのか」
「連れて帰るなんて若様は大した者だ」
四方八方から民衆の声が飛び交う。皆、押し合いながら一目采鈴の姿を見ようと必死である。上は杖をついた老人から下はまだ乳を飲んでいる赤子まで、皆勢ぞろいで景春の帰りを喜んだ。民衆の壁は一直線に城まで続いていた。
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