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城へ着くと今度は景春の母親であるお園の方が待ち構えていた。
采鈴はお園の方のするどい視線に怯んだ。上から下まで舐めるように見られていい気はしなかった。しかも、お園の方の後ろに控える侍女たちまで異物を見るような目で采鈴のことを見ていた。時折、口元に袖を当てながらひそひそ声で話している。
景春が采鈴に対して『必要なのだ』と言ったわりに、歓迎されている雰囲気ではなかった。
母の姿を見た景春はすっと片足をついた。
「ただいま戻りました」
「よく無事に戻られた。母は大変嬉しいです。疲れているでしょうからまずは体を休めなさい。殿には帰還の挨拶が遅れると申し上げておきます」
「ご心配なさらずに。先に父上の元へ参ります」
「では、わたくしも一緒に参りましょう」
お園の方が着物の端を持ち上げ踵を返す。後ろに控えていた侍女たちがきれいに整列してお園の方の後ろをついていく。
采鈴が躊躇していると景春がわりと強い力で采鈴の腕を引っ張った。その瞬間、采鈴は何とも言えない不安に襲われた。
お園の方は奥の障子の前で止まった。
「殿、入ってもよろしいでしょうか」
「構わん。入れ」
と、間をおかずに野太い声が返ってくる。
部屋の中には顔にシワが大量に刻まれた老爺が座っていた。書物を読んでいたようでその周りには何冊もの書物が散らばっていた。
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