二 伝説の姫

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 采鈴は屋敷の離れに部屋を与えられた。以前とさほど変わらない大きさの部屋だったが、采鈴はいい心地が良い気がした。何より四方を襖や壁で仕切られていないことが采鈴にとって新鮮だった。一面の障子からは自然光が入ってくる。それだけで穏やかな気持ちになった。  采鈴は外の様子を見ようと少し障子を開けた。そこには美しい庭が広がっていた。  枝の隅々まで手入れされた木々がたおやかに根を下ろしている。主張しすぎない程度の大きさの池には色鮮やかな鯉が泳いでいる。水をいっぱいに含んだししおどしの竹筒が水を注ぎ切ったとき、その頭を持ち上げ軽快な音を鳴らした。  采鈴は日が落ちるまで縁側に腰掛け、自分だけの庭園を眺めていた。 「緋色の姫様、入ってもよろしいでしょうか」  可愛らしい女子の声が襖の向こうから聞こえた。  采鈴はどう反応したら良いかわからず、部屋の隅の方で小さくなっていると襖が開き、采鈴とさほど年が変わらない娘が現れた。 「あら、いらっしゃるなら何かおっしゃってくださったら良いのに」 「ごめんなさい」  娘は袖元で口を隠しながらふふっと笑う。そのまま部屋に入ってきて采鈴の前で正座した。 「面白いお方。謝らなくても良いんですよ」 「あ、はい」  采鈴は顔を真っ赤にして俯いた。
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