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桐は仕事のできる娘で、采鈴の身の回りの世話を要領よくこなした。
采鈴が風呂上がりに桐に髪を梳いてもらっているときだった。
「美しい緋色の御髪ですこと」
と桐が感嘆の声をあげた。
抜け落ちた長い髪の毛がひらひらと采鈴の目の届くところに落ち、采鈴は緋色のそれを拾った。
「本当に私の髪の毛なのかしら」
「ふふ。緋色の御髪をお持ちなのは采鈴様だけですよ」
「やっぱり信じられません。つい何日か前までは皆と同じで黒色だったんですもの」
桐の髪を梳く手が止まった。
「まさか染めていらっしゃるのですか?」
「違います! そのいつの間にか髪が緋色に変わっていたのです」
桐は櫛を隣に置くと何やら真剣に考え込んでぶつぶつと独りごち始めた。
「緋色の姫は生まれたときから緋色ではないということなのかしら。伝説では緋色の髪を持ちたる姫がとしか書かれていないから考えたこともなかったけれど……」
「あの、桐殿。私にもその伝説とやらを教えてくれませんか」
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