二 伝説の姫

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「わかりました。緋色の髪の少女の伝説はこの地域に古くから伝わるものです。    その昔とある弱小国が隣の大国に攻め入られたとき、緋色の髪の少女が現れてその危機を救ったと言われています。  かつての弱小国、つまり、この佐島(さじま)(くに)は大国への勝利の勢いのまま、さらに領地を広げて今や大国の一つになっています。  しかし、最近不穏な空気が漂っています。佐島の国の北側に位置する二国、和辰(わだつ)(くに)鞍馬(くらま)(くに)が同盟を結び、戦を交える準備を行っているそうです。佐島は大国ですが、和辰と鞍馬が合わされば非常に厳しい戦いになるでしょう」  采鈴は霧が晴れるように、景春が采鈴にかけた言葉の意味を理解した。『わしにはそなたが必要なのだ』という景春の言葉に嘘偽りはない。それだけで嬉しかった。 「桐殿、もう一つ聞いても良いですか?」 「なんでも聞いてください」 「景春様が好いておられる方はいらっしゃいますか?」 「お一方ではないでしょうね……」  桐は即座に采鈴の景春への想いを汲み取り、とても言い辛そうな様子だった。  実際のところ、景春は許嫁がいる身ではあるが、他にもたくさんの女性と関係を持っていると噂されている。  桐はどこまで本当のことを采鈴に話しても良いか悩んだ。 「でも、若君は采鈴様のことを大切な方と思っていらっしゃると思いますよ」  やはり、純粋な采鈴に本当のことを言うのは気が引けたのだった。
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