二 伝説の姫

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「兄上はずるい。長兄だから欲しいものはなんでも手に入れることができるのだ。そのくせケチなところがあるから俺には何も寄越してくれない。一つくらい譲ってくれても良いと思わないか?」 「離してください」 「緋色の姫、大切にしてやるから俺に仕えろ。悪いようにはしない」  そのとき、音もなく依秋の腕を掴む者が現れた。 「依秋殿。おやめください」 「……武蔵丸か」  依秋は素直に采鈴から手を離した。  采鈴は糸が切れた操り人形のように床に座り込んだ。 「依秋殿。勝手に女子の寝所へ入られるのは困ります」 「今更説教か? この間、俺が他の者に夜這いをしたときお前は見て見ぬ振りをしていたではないか」 「あの者とでは訳が違います。緋色の姫君は若君がお連れ帰りになったお方です。ご兄弟で無駄な争いを生まぬようにとただそれだけのことです」 「その割に兄上は帰ってきてから緋色の姫の元へは一度も来ていないようだが」 「お忙しいのです」 「まあいい。兄上の手がついていようといまいと俺は緋色の姫を諦めないからな」  依秋は捨て台詞を残して去っていった。
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