一 迎え人

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 采鈴は書物を読む気にならなくなり、落ち着かない様子で部屋の中を何度も往復した。空耳にしてはあまりにもよく聞こえすぎた。  部屋の外が騒がしくなった。遠くの方から何度も鐘が打ち鳴らされる音が聞こえ、その音の合間に悲鳴のような声も混じる。  采鈴は体を強張らせながら襖に耳をあてた。廊下を忙しなく行き来する足音がする。何か非常事態なことが起きていることはわかったが、長年染みついた部屋を出てはいけないという縛りのせいで、采鈴は襖を開けることができなかった。  しかし、いくら待てども誰かが采鈴の部屋を訪れる気配はない。その一方で騒ぎは増していくばかりだ。  焦げ臭いにおいに耐えきれなくなった采鈴は鼻をつまむ。いつのまにか白い煙が部屋全体に充満していた。  息が苦しくなり采鈴はその場に倒れた。  朦朧とする意識の中で襖が開いたのがわかった。  煙の中に誰かが立っていた。その人物が動くたびに金属が擦れる音がする。采鈴の体がふわりと浮く。采鈴は抱き抱えられて外へと連れ出された。外の新鮮な空気を吸い込むと同時に采鈴は咳き込んだ。 「大丈夫か」  すぐ目の前に美しい青年の顔があった。采鈴は驚いて声がでなかった。  青年は甲冑姿だった。その周りに同じく甲冑姿の男が何人か立っている。
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