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武蔵丸は座り込んでいる采鈴の前に片膝ついた。
「大丈夫ですか」
「はい」
「警備が手薄になっていて申し訳ございません。このことは若君に話して、きちんと対処いたしますのでご安心ください」
采鈴の目からすうと涙がこぼれた。
「それほどまでに怖かったのですか」
「いえ、違います。確かに依秋殿の言うとおり、景春様は屋敷に帰ってきてから一度も私のところに会いにきてくれません。以前、武蔵丸殿は私以外にも女子がいると言っていましたし、桐殿も景春様が好いておられる方は一人ではないと言っていました。きっともう飽きられてしまっているのでしょう。そのことをまざまざと突きつけられたような気がして、胸が苦しくてしょうがありません」
「……だから言ったでしょう。本気になると傷つくのは貴女です」
武蔵丸は呆れていたが、その態度の割に泣いている采鈴の隣に座り、采鈴が落ち着くまで居続けた。
ぐずぐずと鼻を啜っていた采鈴が静かになる。武蔵丸が采鈴の様子を伺おうとしたとき、采鈴の頭が肩に乗っかった。武蔵丸は拍子抜けしてしまった。
「眠ってしまわれたか」
武蔵丸は采鈴を起こさぬように抱き抱えて布団へと連れていく。そして、静かに月夜へと消えていった。
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