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采鈴は迷路のような城の中を景春に手を引かれながら歩いた。城には采鈴が想像していたよりも多くの人が働いていた。城の者は景春と采鈴を見かけると決まって頭を下げた。采鈴は少し距離が置かれているような気がして寂しく感じた。
采鈴が連れてこられた場所は城の最上階だった。采鈴は感動のあまりに手すりから身を乗り出して目の前に広がる景色を見た。危ないと感じた景春が采鈴を後ろに引っ張るほどであった。
「こんなに高い場所から見たのは初めてです。あんなに遠くまで見渡せるのですね」
「采鈴はこの景色を見てどう感じた?」
「美しいと思いました。城下町だって本当に人が住んでいるのかと思うほど小さく、まるで箱庭のようです」
景春は遠くを指差して采鈴の目線を上げた。
「あそこに見えるのは刈り上げ前の田んぼだ。あと少しすれば収穫されるだろう。今年は天候にも恵まれ豊作だそうだ」
「景春様はお国のことをなんでもお知りなのですね」
「采鈴、もっと遠くをみてごらん。あの小さく見える山のあたりまでがわしの国だ。ご先祖さまが命をかけて広げた領土をわしは命をかけて守らねばならん」
「大丈夫です。景春様ならできると思いま……」
采鈴が言い終わらないうちに景春は采鈴の手を握った。
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