二 伝説の姫

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「稲穂の刈り上げが終われば、おそらく和辰の国と鞍馬の国が戦を仕掛けてくるだろう。わしは領土を守るためその戦いを受けねばならん。采鈴、戦に勝つためにもそなたの蛇目(じゃもく)(ちから)をわしに貸してくれないか」 「じゃ……それはなんでしょうか? 私にはさっぱりわかりません」 「なぜとぼけたふりをする? わしと出会った日の夜、そなたは老巫女に対して不思議な力を使っていた。あれこそが蛇目の力であろう?」  突然、采鈴は耳を塞いでしゃがみ込んだ。すさまじい音量の金切音が耳を貫いたのだ。  女の叫び声にも近い金切音の中で、采鈴はあの夜の日のことを思い出していた。  朦朧とする意識の中で采鈴は全方位が夕暮れの色をした世界に立っていた。どこにも誰もいない。采鈴たった一人だった。どれだけ歩いても景色は変わらない。前に進んでいるのかどうかも分からなくなり、目的を失った采鈴が諦めて座り込んだとき、采鈴と同じ姿をした少女が采鈴の前に現れた。 『何もかも忘れてしまって。可哀想な采鈴』  少女はそう呟いて座り込む采鈴の頭に触れる。 「あなたは誰? 私と同じ姿をしているけど」 『私も采鈴。でも、ずっとずっと眠らされていた。もう眠らなくても良いみたいだから、すごく気分がいいの。さあ、采鈴。思い出すのよ』 「思い出す? 一体何を?」 『大丈夫。私がいれば怖くないから』  少女の手が発光を始める。少女の人の形は崩れていき、徐々に円形に変わっていく。やがて大きな光となって采鈴の中に入った。
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