三 秘めたる力

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 采鈴はその横顔に見覚えがあった。 「桐殿、景春様の奥で弓を引いておられるお方を知っていますか?」 「由良之親(ゆらのしん)様ですよ。あのお若さで佐島の国一の弓の名手と言われています」 「若いと言っても30の半ばでいらっしゃるじゃないのでしょうか? あんなに立派なお髭を生やしていらっしゃいますし」  訝しげな顔をする采鈴を見て桐は吹き出した。 「采鈴様、失礼ですよ。由良之親様は18歳、若君よりも年下でいらっしゃるのですから」 「嘘でしょう!」 「本当です。実の年齢よりも優美で大人びて見えるところがまた素敵で。熱狂的な信者も多いのですよ」  弓の練習を終えた由良之親が采鈴たちのいる縁側を通りかかった。由良之親は采鈴を見かけると、さっと跪いて頭を下げた。 「緋色の姫君、この間は偽物なのではないかと疑うようなご無礼を働き大変申し訳ありませんでした」 「頭を上げてください。私は少しも気にしていませんので」 「お優しいお言葉かたじけなく存じます。緋色の姫君、何か困りごとがございましたら、どんな些細なことでもこの由良之親にお申し付けください」 「ありがとうございます」  由良之親は丁寧に一礼をして采鈴の元を去り、間を置かずに景春が采鈴の元へやってきた。采鈴は立ち上がり、桐に手渡された手拭いを景春に渡した。
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