三 秘めたる力

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「景春様、お疲れ様でございました」 「ああ、少し疲れたな」 「お休みになられますか?」 「いや、そこまでではない。このままわしと共に来てくれるか。桐は下がってくれ」  景春は汗を拭いた手拭いを采鈴に渡す。采鈴は嬉しそうにその手拭いを握りしめていた。  普段なら景春は弓矢の練習の後は着替えをするために自室へ戻るのだが、今日は自室とは異なる方向へ向かう。采鈴は不思議に思いながらも景春についていった。  着いた場所は城の地下牢だった。上階の華やかな雰囲気とは対照的に物々しい雰囲気である。入り口には数人の見張り番の侍が槍を持って立っていた。その奥に向かい合わせでずらりと格子が並んでいた。  采鈴と景春は地下牢に足を踏み入れた。  日の光が届かないせいで中は薄暗く、じめじめとしている。どこからともなく漂ってくるにおいは良いものとは言えない。時折、雨漏りらしき音が聞こえた。  景春が手燭を掲げると人影が見えた。武蔵丸である。腕を組みながら立ちすくんでいたが、景春に気づくとすぐに片膝をつく。 「若君、どうされましたか」 「少し気になってな。何か分かったか?」  景春は顔を地下牢に収容されている男に向ける。男は胡座をかいて座っていたが、ひどく疲れ切った顔をしていた。古びた衣服から見える肌の傷が痛々しい。
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