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武蔵丸は力無く首を横に振った。
「この者、口を割りません」
「しぶとい奴だな」
景春は格子に手をかけ、牢屋の中にいる男を睨みつけた。
「いい加減、己が和辰の間者だと吐かんか」
「……私はただの農民です。生まれも育ちもここ佐島でございます」
景春は側に立てかけてあった木の棒で男の腹をついた。男はうめきながら少量の唾を吐き捨てた。しかし、男の口は固く閉ざされていた。
「なるほど。よっぽど口が堅いと見える」
景春は不安そうな顔をしている采鈴の手を取った。
「采鈴、あの力を使ってくれるか」
「私はどうすれば良いのでしょうか」
「こやつに本当のことを喋らせてやれば良いんだ。できるな?」
采鈴は静かに頷いた。
「景春様、武蔵丸殿。危ないので私の後方にいてください」
采鈴はゆっくりと目を閉じた。次に目を開けたとき采鈴の目は緋色に変わっていた。
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