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「武蔵丸」
と青年は誰かを呼んだ。
青年より若い少年が前に出てきて跪いた。
「この者か」
そう問われた武蔵丸は青年に抱き抱えられている采鈴の顔を凝視した。采鈴は恥ずかしくなり袖で顔を隠した。周りに複数人いるだけで息が詰まりそうなのに、その上、顔をじっと見つめられることに耐えられる訳がなかった。
武蔵丸は采鈴の顔が見えなくなってもさほど気にすることなく、自身が納得するまで采鈴を観察した後、再び青年の前に跪いて「はい」と答えた。
一人、不満げな声をあげたものがいた。
「その者まことに緋色の姫か? 伝説では髪が緋色のように輝くとのことだったが。武蔵丸、若君に偽りを申しているのではないか」
「いえ。緋色の姫でございます」
立派な髭を蓄えた男は武蔵丸の胸ぐらを掴んだ。
「もし別の者を連れてきたとなれば、ここに来るまでに死んでいった我が家来の命が無駄になるのだぞ」
「確かにここに辿り着くことができたのは由良之親様のお力あってこそです。感謝いたします」
「心にもないことを。俺はおぬしの気取った顔が気に食わぬ」
「その辺にしておかないか」
由良之親を制したのは若君と呼ばれた青年だった。由良之親は鼻息を荒くしながら武蔵丸を突き放した。
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