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「……珠様」
若君は采鈴の震えるような声を聞き逃さなかった。青ざめている采鈴の手を取って自分の方へと寄せた。
「そなたはあの鬼婆のような者の元へ帰りたいか」
「……私は珠様に逆らってはいけません」
「逆らってはいけない? なぜだ?」
「なぜと言われましても」
若君は狼狽える采鈴を力強い眼で見つめた。
「そなたの人生はそなたのものだ。他人が口出しするいわれはない。そなたがあの小さな部屋に戻りたいと言うのなら、わしは喜んであの老婆に引き渡そう。」
「私が戻りたくないと言ったとしたらどうするおつもりでしょうか」
「全力でここから連れ出してみせる。わしと共に国へ来い」
采鈴は視界が開けたような気がした。これまでずっと珠の顔色を伺いながら小さな部屋で過ごし、そしてその生活が死ぬまで続くと思っていた。外の世界への興味がなくなるほどあの小さな部屋にいるべきだと洗脳され続けた采鈴にとって、若君の言葉は采鈴の常識を打ち破る威力があった。一度湧き上がった欲望は止まることを知らない。
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