一 迎え人

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「珠様」  と、緋色の女は口を開いた。  珠は怯えた表情で女のことを見ているだけだった。何か言いたげだったが口は真一文字に固く結ばれている。  女が「話せませんの?」と呟きながら珠の口元を撫でると珠の口は解けたものの、体は依然として石のように動かない。 「采鈴、落ち着け」  采鈴と呼ばれた緋色の女はふっと口元を緩めた。 「落ち着いています。珠様こそもう少し肩の力を抜いた方が良いのではないですか」 「今のお前は冷静な判断ができなくなっておる。屋敷に戻ってわらわとゆっくり話そう」 「屋敷に戻る? 火だるまのように燃えているのが見えませんか? それにあなたと話すことなんかもうありません」 「采鈴! 早くわらわの体を解くのじゃ」  采鈴が無言で珠の口元を撫でると珠はまた話せなくなった。 「そうやって力でねじ伏せようとしても無駄です。今の私は昔のわたしと違う」  采鈴は珠に背を向けて景春の手を取った。采鈴を連れた景春一行の姿が小さくなっていく。  置き去りにされた珠の後ろには屋敷を飲み込んだ炎が迫るが、珠は逃げることができない。だが、動けないはずの珠の口元が微かに動く。 『ワザワイ ガ トキハナタレタ』  声にならない。ゆえに誰にも届かない。
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