二 伝説の姫

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 天幕の中で采鈴は横になっていた。芳しい香りとともに隣に滑り込んでくる人影がある。景春だった。肘枕をしながら采鈴を覗き込む形で寝転んだ。 「具合はどうだ」 「少し良くなりました」 「なら安心した。今夜はここで野営をすることになったのだ。明日出立するゆえしっかり休むといい」  景春はそっと采鈴の体に手を回して自分に引き寄せた。  采鈴の心臓がぴくりと跳ねる。それがどういう感情なのか采鈴自身まだわからなかったが、不快でないことだけはなんとなくわかった。  景春は采鈴の緋色の髪を長い指で持ち上げる。さらさらと指から溢れていく髪を濡れた眼差しで見ていた。 「美しい色だ。ここまで心奪われるものをわしは見たことがない」 「そうですか。私はこの緋色を見ても美しいかわかりませんし、それに自分の髪の毛なのかまだ実感もわきません」 「じきに慣れるであろう」 「景春様はどうしてあの森にいたのですか?」 「わしはそなたを探しに来たのだ。噂を聞いてどうしても会いたくて、遠路はるばる従者を引き連れて参上したわけだ」 「どんな噂でしょうか?」 「気にせんでよい。とにかく采鈴、わしにはそなたが必要なのだ。これだけは断言できる」  采鈴の頬は微かに赤く染まっていた。自分が必要だと景春に言われて嬉しくなっていた。誰からも相手にされず、唯一采鈴とまともに話してくれる珠にさえ冷たい仕打ちを受けていた采鈴にとってこれ以上にない喜びだった。 「では、邪魔したな」  景春が立ちあがろうとしたとき、采鈴は景春の袖を引っ張った。 「もう少しこのままで」  微笑した景春は再び采鈴の隣で寝そべる。そのまま夜が更けていった。
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