堕ちた伯爵令嬢の未来

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「い、一般論だろ。年上を揶揄(からか)うな小娘」 「年の差がなによ」 「俺がいくつか知ってんのか。三十二歳だぞ」 「私の両親は十五歳離れているわよ」 「お貴族さまと一緒にするな」 「でも、貴方は――」  レティシアの言葉を遮り、ダレルは言った。 「俺はただの風来坊だ。異国の血を引いた、出自もわからん男だ」 「なら私だってそうよ。私はレティ・ロスコー。両親を亡くして、今の両親に引き取られて暮らしている。恩師の紹介で話をした方が気になって仕方がなくて、名刺を頼りに追いかけてきた、みっともないただの女よ」  息を荒らげ、潤んだ瞳でダレルを見つめる。  興奮のためか赤く染まった頬は、過度な化粧よりずっと女を際立たせ、息を飲まざるを得ない。艶を取り戻した髪はゆるくまとめられているが、指を差し入れて乱してやりたい衝動に駆られる。  まったく、男を惑わす妖艶な悪女とはよく言ったものだ。  噂は(ひが)みからくるものだったが、素質はあるらしい。自分限定かもしれないが、他の野郎に披露されるまえに消し去っておく必要があるだろう。 「――ただの女なら、遠慮はいらんか」 「な、なによ」  ニヤリと笑ったダレルに恐れを感じたか、反射的に逃げようとしたレティシアを捕まえて、書架の途切れた壁に押しつける。 「俺はな、追われるよりも追いかけるほうが性にあってるんだよ」  逃げたきゃ逃げろよ。  耳元で囁き、身を竦めた彼女の吐息を追いかけて、その(みなもと)を封じる。  しびれをきらした編集長が扉を豪快に叩くまで、ダレルは彼女の舌を追いかけることに専念した。
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