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帝都の裏通り。入り組んだ路地の先にある、御用聞きと雑貨屋を兼務した店。扉を開くとカウンターに若い娘がいた。
「レティシア・ロストさん」
「どなたですか?」
不信感丸出しの声で問い返され、ダレルは笑みを浮かべる。
名刺を取り出し、肩書が見えるかたちで差し出したところ、相手の顔はあからさまに歪んだ。記者に対する反応としては至極当然といえる。彼女の場合、立場が立場だ。
「よくここが分かりましたね」
「伝手がありますので」
「いいわ。ここまで来たのは貴方がはじめてだもの。敬意を表して相手ぐらいはしてあげる。なにが訊きたいの? 私を訪ねてきたということは噂の真偽かしら。残念ね。貴方たちにとっては、逃亡を手助けしている男や、それを手玉に取っている悪女の姿が欲しかったんでしょうけど、ご覧のとおりよ」
手を腰に当てて胸を張るのは地味な装いの女性だ。化粧っけもなく、艶を失ったくすんだ金髪を無造作にまとめている姿は元伯爵令嬢とは思えない。
あの事件から三年。たしか二十歳になるはずだが大人びた顔つきをしている。
その哀愁がさらに魅力を増大させているのか。事前に見ていた写真とは違う美しさがあり胸が騒ぐ。
取材対象になにを考えているのか。
濃紺色の瞳を伏せ、ひとつ呼吸をしてからくちを開く。
「残念だなんて思いませんよ。望みはそれではないので」
「どういうこと?」
「父親にかかった嫌疑を晴らし名誉を回復させる。醜聞もだ。そのために追いかけてきたんですよ」
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