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「ご苦労、シャルロット。そして、ごきげんようリオン・ヴェルレーヌ君」
国王はお遣いから戻って来た娘を労い、連れて来られたガラスの君に挨拶をする。
「リオン君、君がシャルロットに思いを寄せていることも、シャルロットが君に対して同じように思っていることも分かっている。シャルロットの気持ちを汲んでやりたいが、そう簡単なものではない。君も分かっているだろう。君は貴族の息子で、その子はこの国の王女だ」
「はい……」
「ただ、ドミニクがシャルロットの意向に同意している。元々の婚約者が婚約破棄を認めているのだから、別の者を立てなければならない。いつまでもシャルロットの婚約者を不在にはできないからな」
「お父様! では、わたくしはリオンと……」
シャルロットのことを制止して、国王はオール侯爵をちらりと見る。
「昨日、貴族や政治家達を集めて話をした。その結果、君が本当にガラスの君ならば婚約者として認めてもいいのではないかということになった。ガラスの君だと確定しても、そこからまた話し合いを経る必要があるが」
「リオンはガラスの君よ」
オール侯爵が一歩前に出た。侯爵はリオンを睨み付けて怯ませ、シャルロットに恭しく礼をする。そして、リオンの足元を指差した。
「リオン・ヴェルレーヌ。もう片方は持っているのだろう?」
「もう……片方……?」
リオンは自分の足を見て、ハッとして顔を上げる。その反応に、大人達は少し不思議そうな顔になった。
もう片方って? とシャルロットが訊ねる。
「王女様が拾われて先日彼に履かせたガラスの靴は片方だけでしょう。舞踏会の際に脱げた方。彼がガラスの君本人ならば、もう片方の靴を持っているはずではありませんか、殿下」
「両足ぴったりなら認めてくれるのね、お父様、お母様」
「えぇ、そうね。私達だって貴女達を苦しめたいわけじゃないのよ。でもこれは大事なことだから。分かってね」
王妃はそこまで言って、リオンをちらりと見た。
「本人の前でこういうことは言いたくないけれど、サンドール子爵家は大変な状況でしょう? 貴方自身は素敵な子かもしれないけれど、周囲の目というものがあるのよ。貴方がシャルロットにふさわしいのかどうか、みんな怖い目で見ているわ。シャルロットの気持ちというものがなければ、貴方がここに立つことすらできない人間だということは理解してね」
王妃の声は優しい。優しくて、きつい。現実を突き付ける穏やかな声に、リオンは少し視線を彷徨わせる。
サンドール子爵家はあと一歩悪い方向へ踏み出せばすぐに没落する可能性がある。そんな不安定な家は王女の相手にふさわしくない。リオンがシャルロットと並び立つためには、シャルロットの求めるガラスの君として皆に認めてもらわなければならない。
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