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Verre-1 王子の心配事
レヴオルロージュ中の貴族の令息という令息に対して、シャルロットはガラスの靴を履かせた。公爵の子、侯爵の子、伯爵の子……。舞踏会に参加していた者を中心に若い息子のいる貴族に片っ端から声をかけ、王宮に来られる者は王宮に呼び付け、モーントル学園の寮生だという者にはシャルロットが学園に赴いて靴を履かせた。
しかし、誰の足にもガラスの靴は合わなかった。大きかったり小さかったりで、ぴったりの者がどこにもいない。
「シャルロットにも困ったものだなぁ。リオン殿もそう思わないかい」
「え。えぇ、そうですね……」
議事堂の廊下を歩いていたリオンに話を振って来たのは、柔らかな金髪の美青年である。
「どこの誰かも分からない人を探すなんて……。見付かるのかな……」
「ジョルジュ殿下はどう思われているのですか。見付かると思います?」
「うーん、そうだな……」
レヴオルロージュ次期国王、ジョルジュ王子。シャルロットの兄である彼は、おじさんばかりの話し合いが苦手なのでリオンの近くに寄って来ることが多い。もちろん、リオンがガラスの君であることは知らない。
ジョルジュはリオンの髪に目を向ける。
「舞踏会の時、私は件のガラスの君を見ているんだ。貴殿のような銀色の髪をした人で、少女と見紛うような可憐な少年だった」
「遠回しに私のことを女顔だと仰っていますか?」
ジョルジュはぶんぶんと手を振って否定する。
「違う違う、そうではなくて。あれほど美しい人物なら、もっと話題になるしもっと有名だし、もっとすぐに見付かるものだと思うんだよね」
「まあ、それはそう……ですね」
「どこにいるんだろうなぁ。あの時の招待状を確認すれば分かりそうなものだけれど、それを頼りに靴を履かせても全然見付からないんだ。リオン殿はコレクション収集のために色々な所へ行っているだろ。どこかで見たことないかな。……あぁ、そうか。あの時、貴殿は来ていなかったから分からないか……。お義姉様方に追い駆けられて大変だったよ」
「その節は義姉がご迷惑をおかけしました」
「いやいや、貴殿のお義姉様方だけではなかったし、貴殿の謝ることではないよ」
目の前に立っている自分に向かってマドモワゼルと声をかけたということを知ってしまった時、ジョルジュはどうするのか。リオンは「早くガラスの君が見付かるといいけれど」と言って笑っているジョルジュを見る。
目が合うと、ジョルジュはにこりと微笑んだ。数多の淑女を骨抜きにしてきた王子の笑顔にリオンが動じることはないが、麗しいと思ってしまうことは事実である。ジョルジュは未だに色恋の話題が全くと言っていいほど上がってこないため、周囲に集まる女性達もいまだにドレスの下で足を踏み付け合っている。
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