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大きくなったシャルロットにリオンは目を奪われた。抜け出そうかと言われて、そのまま手を引いて行ってしまおうかとも思った。今のシャルロットがリオンのことをどう思っているのか、そもそも覚えているのかどうかは分からない。それでも、あの夜共に踊ったガラスの靴の少年に本心を語って逃亡を提案したのは事実である。
「もう少し自分に自信を持ってもいいと思いますよ、俺は」
「いや、王族の結婚問題は真面目な話だから中途半端に近付いても私が何かしらのダメージを受けるだけだ。ヴェルレーヌ家はやはりまだ弱すぎる。私は頑張っているつもりだけれど、父上が元気だった頃と比べれば全然駄目だし……。落ちぶれた家が復活するのは難しいね。先日も陰でこっそり『光っているのは庭だけ』って言われているのを聞いてしまった……」
「確かに物理的に光ってはいますね」
ガラス張りの扉を開けて、リオンとアンブロワーズは硝子庭園を後にした。すっかり本邸と化している別邸、その玄関に向かって歩いていると、可憐なドレスを纏った女性が肩を怒らせながら近付いてきた。下の義姉であるナタリーだ。
「リオン! お姉様が探していたわ! ちゃんと時計見て動きなさいよね! 待ちくたびれたって言って私が八つ当たりされちゃったんだから」
「すみませんお義姉様。居眠りしていたらしくて」
「もう、しっかりしなさいよね。仮にも貴方、子爵の代理なのだから。大黒柱代理でしょ。まさか議会で居眠りなんてしていないわよね」
怪訝そうに睨み付けて来るナタリーに対して、リオンは慌てて首を横に振った。
「まさか! 今日は、その、温室で花を眺めていたらぽかぽかしていて気持ちがよくてですね」
「遠い国にそんな感じの言葉があるって聞いたことがあるわ。春は暖かくて眠いわよね。でも、お姉様と約束をしていたのだったらそれを疎かにすることが貴方に許されると思っているの」
「すみません。本当にすみません、以後気を付けます」
「おいナタリー嬢、あんたも凝りませんね。そのくらいにしておいた方がいいですよ。あんただって分かってるでしょ、さっき自分で言っていましたし。誰のおかげで今暮らせていると思っているんですか」
「やめろアンブロワーズ。何年もそうしていたから私もお義姉様方ももう癖や習慣が抜けないんだ。お義姉様に突っかかるな。この間も言ったよね」
掴みかかる勢いだったアンブロワーズをリオンは制止する。襲われると思ったのか、ナタリーは驚いた様子でアンブロワーズのことを見つめていた。
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