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ナタリーに礼をして、シャルロットは硝子庭園へ向かった。大事そうに抱えた箱の中身を確認しながら、足元に気を付けて歩く。両手が塞がっているためガラス戸は侍女に開けてもらった。
入口で侍女を待たせ、シャルロットはガラスと植物達が咲き乱れる空間に踏み込んだ。きらきらと輝くガラス細工に照らされながら、かわいらしい花々が風に揺れている。
通路を進んで行くとガゼボが見えて来た。シャルロットの来訪に気が付いたのはガゼボの柱に凭れていたアンブロワーズである。リオンはベンチに座って熱心にガラス製の何かを磨いており、足音にも気配にも気が付く様子はない。
「これはこれは王女様、本日もご機嫌麗しゅう」
「こんにちは、魔法使いさん」
二人が挨拶を交してシャルロットが階段を昇り始めたところで、ようやくリオンは顔を上げる。
「シャルロット! すみません、気が付きませんでした。ごきげんよう、殿下」
「ごきげんよう。何を磨いていたの?」
シャルロットに問われて、リオンは手にしていたものをテーブルに置いた。
「ネズミです」
テーブルの上にちょこんと座るガラス製のネズミの置物。透き通った体に宝石でできた青い瞳が映える。
「このネズミさんもオークションで?」
「この子はこの間出かけた町のガラス工房で買ったんです」
「へぇ。かわいい」
テーブルにシャルロットが近付くと、手にした箱から甘い香りが漂って来た。リオンの方を見ていたアンブロワーズがシャルロットに目を向ける。
「王女様、その手に大事そうに持った箱は何ですか?」
「いい香りがしますね」
「あっ、これは……。今日はね、これを持って来たのよ」
シャルロットはネズミの置物の横に箱を置き、そっと蓋を開けた。中に入っていたのはタルトである。隔てるものがなくなり、香りが一層強くなる。
「アンズのタルトよ。貴方と一緒に食べようと思って」
「わ、美味しそう……!」
「では俺はお茶を入れて来ますね」
「うん、ありがとう。よろしく」
アンブロワーズはにこりとリオンに微笑みかけてから、シャルロットに一礼をして硝子庭園を後にした。
ガゼボの内側にぐるりと設置されたベンチ。シャルロットはテーブルを挟む形でリオンと向き合って座った。
「昨日、お兄様がアンズをたくさんくれたの」
「ジョルジュ様は確か、果樹園地帯の視察に行かれたとか。今朝の新聞に載っていました」
「そうそう。それでね、たくさん果物や野菜をもらって帰って来たの。このアンズはわたくしの分だって分けてくれたものよ」
それで……。と、シャルロットはちらりとタルトを見る。
「この、タルト……」
「美味しそうですね」
「これ……。これね、わたくしが作ったの」
「えっ、シャルロットが?」
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