Verre-1 タルト・オ・アブリコ

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「ちょっと、リオン。王女様しょんぼりしてますよ」 「えっ。あ。その、シャルロット。シャルロット、だから、私と一緒に作る時はもっと美味しく作れるように頑張りましょうね」 「下手くそですね貴方。そんなところも不器用でかわいいですけど。……王女様、どうか気を落とさないでくださいね。リオンは貴女のタルトを褒めているんですよ。だってこれは、貴女がリオンを思って作ったものでしょう? それが美味しくないなんてことないんですよ。誰かのために作ったものには、その人を思う気持ちが込められていますからね。例えばそれが食べ物だった時、口に入れて得られる美味しさというものは味だけではありません。思いも含めて、美味しいんですよ」  アンブロワーズの言葉にリオンは大きく頷く。  シャルロットはタルトを口に運びながら「次はもっと頑張るわ」と呟いた。  素材の良さが感じられるタルトの中身と、初めてのお菓子作りに奮闘した王女の努力が感じられるタルトの外側。初めてだからこその今しか味わえない風味と、たっぷり込められたリオンへの思い。それらが織りなす、「今日ここで食べるこのタルト」にしかない美味しさ。口に入れるだけで、噛むだけで、リオンはどんどん笑顔になった。 「お兄様がもらって来た果物と野菜、本当にたくさん山ほどあるの。パーティーが開けそうなくらい。どうやって食べようねってお兄様と考えているんだけれど」  少し考える素振りをしてから、リオンはティーカップをソーサーに置いた。いい案が思いついたのか、青い瞳がきらりと煌めく。 「……それなら、いっそパーティーを開いてしまえばいいのでは?」 「パーティーは開くのよ。でも、建国記念日のパーティーまで果物達が持つかどうか」 「いえ、建国記念日の前に開いてしまいましょう。果物や野菜をふんだんに使った料理やお菓子で、盛大なティーパーティーを。たくさん人を招待して」 「……お茶会を?」  シャルロットは疑問符を浮かべて小首を傾げる。果物達を皆で味わうことができれば良いので盛大なお茶会を開くことは間違っていない。しかし、リオンがお茶会がいいと力説しているからには何か理由があるはずである。  リオンは皿の上のタルトをフォークで切り分ける。 「貴族という貴族を集めましょう。大規模なお茶会を開いて貴族を招待し、珍しい靴を持っている人を探すんです」 「なるほど……?」 「私とシャルロットがもう片方のガラスの靴を探していることをオール侯爵以外は知りません。ガラスの君探しの時のように訊ねて回っては不思議に思われてしまうでしょうから、集めてそれとなく訊くんです。王女主催のお茶会となれば多くの方が参加してくださるでしょう。そこで、探すんです」  そう言って、リオンはタルトを一口食べた。シャルロットは自分の皿を見つめながら「なるほど……」と小さく呟く。 「果物も使えるし、靴も探せるのね」
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