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verre-2 我が侭な覚悟
建国記念日のお祝いのために至る所で準備や飾り付けが始まろうとしていた。貴族達も準備のためにうろうろとしていたところに、王宮から招待状が届く。曰く、お茶会を開くのだと。
第二王女シャルロット主催の大規模なお茶会。建国記念日の催しに先駆け、本番前に気分を盛り上げるために行うそうだ。招待客は国中の貴族という貴族。会場は王宮の中庭で、二日間に分けて開催される。
王女からの招待状を見た貴族の反応はそれぞれである。王女様も催しを提案なさるようになったと喜ぶ者もいれば、ガラスがなんだかんだと我儘を言っていたと思ったら今度は急な催事かと不満を露わにする者もいた。
オール侯爵は後者である。
「あの小娘っ、何を考えている! さっさと諦めればいいものを!」
招待状を破り捨てようとして、王宮から届いた書状を破るのはさすがによくないと考えて思い留まる。眉間に皺を寄せて、侯爵は招待状を睨み付けた。
傍らに控えていた執事長は不機嫌そうな主を宥めることはなく、手にした書類を捲りながら己の仕事に集中している。この執事長兼家令、すなわちクロードの父親は主の取り扱いに慣れているので、必要なことは漏らさずに言うが余計なことはほとんど言わない。
「しかし参加しないなどと言えば、ドミニクが婚約者に戻った時に何か不都合があるかもしれん……」
「では参加すると返答いたしましょうか」
「そうだな」
そこでようやく執事長は書類から顔を上げた。
「旦那様」
「うん?」
「あれは……本物なのでしょうか……」
「ふむ……。まぁ王女達の探し物が見付からなければ私の勝ちだ。あれが本物かどうかは問題ではないだろう。もちろん、本物ならばその時点でこちらの勝ちは決まるがな」
以前より決まっていた婚約を結婚時期確定の発表直前に突然破棄されて黙ってなどいられない。まして、息子の代わりに連れて来られた男が没落寸前の家の者ともなれば耐えられるはずがなかった。可能ならば、いつ潰れるかも分からないような家の男など蹴落としてもう一度ドミニクをシャルロットの婚約者として立たせたい。
侯爵は招待状を机にひらりと投げ落とす。
建国記念日の前日である六月九日までに、ガラスの君が履いていたというガラスの靴を見付けて持って来る。それが国王の提示したリオンをシャルロットの婚約者として認める条件だ。王女様がどこかの令息と一緒に街をうろうろしたり森に入ったりしながら探し物をしているらしいという噂は侯爵の耳にも入っている。
もしも、ガラスの靴が見付からなかったら。その時には婚約者の権利はドミニクに戻って来る可能性が高い。新しい婚約者候補を探すよりも、ひとまず元々の婚約者に戻した方が早いからだ。王女の婚約者をころころと変えることはあまりよくないが、だからといって空白のままにしておくのもよくない。
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