verre-2 我が侭な覚悟

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 侯爵にとってドミニクの意思は二の次だ。一見非情な親のようだが、決まっていた王族と貴族の婚約をひっくり返そうとしているシャルロットとそれに同意しているドミニクの方が傍から見れば変わっているのだ。  執事長は放られている招待状を見遣る。 「王女様の意図は何なのでしょうね」 「クロードからは何も聞いていないのか」 「坊ちゃんは王女様達と何か話をする時はクロードのことすら離しているようです」 「ふん、用心深いやつだな。まあいい。行けば分かるだろう」  侯爵は不敵に笑う。  シャルロットとリオンがどんな作戦を講じて来ても、ドミニクがどれだけ二人に協力しても、侯爵には切り札がある。あの日、遣いに出していた使用人が見つけて来たもの。あれさえあれば、子供のやることなど粉々に踏み潰すことができる。と、侯爵は考えていた。 「父には何か策があるようで……うわ! 美味しい! 何ですかこれ」 「クッキーを作ったので持って来たんです。少しだけですが」 「リオン様が作ったんですか? すごい……。プロ並みですよこれ」  王宮のシャルロットの部屋で、少年少女達は作戦会議もといのんびりとしたお茶の時間を過ごしていた。テーブルを囲んでいるのは、リオン、シャルロット、ドミニクの三人だ。  王女付きの侍女とクロードはいつものように廊下に控えている。そして、リオンにくっ付いて離れなさそうなアンブロワーズの姿もない。建国記念日のお祝いの飾り付けはレヴェイユの村でも行われており、アンブロワーズは下宿先の時計屋が受け持った分を手伝っているのだ。今日は時計屋のおかみさんと一緒に国旗をあしらった小さな飾りを手にしながら、パンデュールへ向かうリオンのことを見送った。手伝った分を下宿代から引いてもらえるからと手伝いを優先した自分を許してほしいと訴える姿に、リオンは「頑張ってね」とだけ言って馬車に乗り込んだのだった。  リオンが王宮に持参したのは手製のクッキーである。継母と義姉達の優雅なティータイムのために作ったものだが、迎えに来たシャルロットが「いい匂いがする!」と言ったのを合図に数枚を袋に収めた。 「今度のお茶会でシャルロット様とお茶菓子を作ると聞きました。まさか、これほどまでの腕だとは……。店を出せるレベルですよ」 「そんなに絶賛されるとちょっと照れますね」 「美味しい……。どこかのパティシエに教わったんですか」 「いえ、独学です。気になる店に通ったり、本を読んだりして」 「リオン様がこれだけ上手ならば、シャルロット様と作るものにも期待できますね。楽しみです」  クッキーを齧っていたシャルロットが手を止め、少し膨れた様子でドミニクを見た。 「ちょっと、それどういう意味。わたくしだけだと不安だって言うのかしら、ドミニク様は」 「えっ!? えーと……」
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