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「ふふ、いいのよ。その通りだもの。わたくし一人じゃ上手くできなくても、リオンと一緒に作るなら自信を持てるし、頑張れそうよね。ね、リオン」
「何を作るか決めないといけませんね」
ところで、とリオンはティーカップから手を離す。美味しいクッキーの話で聞こえたことを忘れてしまいそうだったが、ドミニクは何かを言いかけていた。
「ドミニク様、侯爵がどうかされたんですか」
「あっ、はい、そう、それなんです。父が何か考えているようなんです。随分と余裕そうだったというか、勝つ自信がありそうだったというか……。何か、秘密の武器があるみたいな感じでした……」
秘密の武器? と、リオンとシャルロットはほぼ同時に言った。
リオンが思い浮かべたのは物騒な道具を携えて不気味に笑う侯爵の姿であり、シャルロットが思い浮かべたのは治安の悪そうな人間を背後に従えた侯爵の姿だった。一体二人は父のことを何だと思って何を考えているんだろうとドミニクは胡乱な目になる。
「本物なら云々、と」
「本物かどうかも分からないものを持っているんですか?」
「懇意にしている貴族の方々と話をしているところに通り掛かって小耳に挟んだだけなので、僕は詳しいことは……」
「あら、そうなのね」
「ただ、とんでもない切り札のようです」
ドミニクがジャンドロン邸に立ち寄った時、侯爵は貴族達に得意気に語っていた。切り札が手中にあるので、頑張って靴を探してもリオンは期日には間に合わない、と。
ドミニクは父のことを尊敬している。そして、恐れている。ドミニクとシャルロットの婚約に関して以外は優しい父親であり、侯爵という地位にふさわしい立派な人物である。ドミニクがシャルロットの婚約者に選ばれた時、侯爵はとても嬉しそうにしていた。舞踏会で泣き出しそうなほど喜んでいた父の姿をドミニクは頭の中にすぐ思い出すことができる。
「……僕、少し不安なんです」
テーブルの下で膝に載せられている手が微かに震えた。
自分はシャルロットと良き友人でいられる今の関係を気に入っている。シャルロットはリオンのことが好きで、リオンはシャルロットのことが好きだ。それならば、自分は引き下がるのがいいだろう。未練はない。しかし、ドミニクは恐れていた。
「僕は父の期待を裏切り、そして、父に恥をかかせてしまうのかもしれません。父は……父は、僕のことを許してくれるでしょうか……。シャルロット様のガラスの君探しに協力して、リオン様に貴族の皆さんの動向を伝えて……」
茶色い瞳が揺れる。
「分かっています。分かっていて、こうしているのに、その時が来てしまうのが怖くて。父だけではありません……母も……。家の皆のことを、僕は……。もう、ここまで来て何言ってるんだって感じなんですけど」
「ドミニク様……」
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