verre-2 我が侭な覚悟

4/7
前へ
/140ページ
次へ
 シャルロットは続きを言うことができなかった。友人という関係で満足していると先に言ったのはドミニクだったが、彼を今の状況に置いたのはシャルロットだ。友人を困らせているのは自分だ。  シャルロットとドミニクは揃って黙ってしまう。二人共何を言うべきか迷っているようで、視線は泳ぎ、開こうとした口は閉じられ、お茶にもお菓子にも手を付けない。  リオンは取ろうとしていたクッキーから手を引く。 「許すとか、許さないとか、その点については心配しなくてもいいと思います」 「……え?」 「侯爵はドミニク様のことを大切に思っているはずです。だからこそ、王女の婚約者という位置を用意してあげたいし、邪魔者の私を排除しようとしているんだと思います。侯爵からはシャルロット様と私のことが息子を脅かす悪者に見えているかもしれませんね」 「悪者なんて、そんな……。絵本なら、お姫様の邪魔をしようとしている父の方が悪役なのに。……でも、そう、ですね……。父からすれば……。それなら、僕は怖がらなくてもいいのかな……」  少しだけ表情を緩めて、ドミニクはクッキーを手に取った。  適切な言葉を告げることができたのか、リオンには分からない。しかし、ドミニクの様子を見て「とりあえず大丈夫そうだ」という判断をした。  普段からぺらぺらと巧みに言葉を紡ぐアンブロワーズの隣にいるものの、リオン自身はその話を聞き流しているだけなので口上手なわけでもないし文章の構築や言葉の選択が上手なわけでもない。  身に着けている知識はほとんどが独学。経験も狭い範囲のもの。目の前に座るドミニクの方が優秀な部分が多いだろう。周りから見て王女様の婚約者としてふさわしいと思われるのはドミニクだ。シャルロットの考えに同意しつつも、リオンのことを認めないことだってドミニクにはできた。「本当にこの人でいいの?」と。 「リオン様、ありがとうございます。ちょっとだけ安心しました」 「私なんかの言葉でほっとしてもらえると嬉しいです」 「……リオン様、あまり自分を卑下しないでくださいね。貴方はガラスの君なんですから。僕もあの日、貴方を見ました。素敵な貴公子で、その姿を目で追わずにはいられませんでした。貴方は自分のことを随分とみすぼらしい存在であるかのように言いますが、全然そんなことないですよ」 「そう……ですかね……」 「リオン様は自己評価が低すぎるのでは? 鳩さんにあんなに褒めちぎられ続けているんですから、もう少し自信を持ってもいいと思います」  ドミニクは力強く言う。対して、リオンは少し困ったように笑った。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加