Verre-1 灰かぶりと魔法使い

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 継母と義姉達が浪費したヴェルレーヌ家の財産はいつになったら回復するのか皆目見当が付かない。だが、リオンの尽力によりこの一年半で少しばかり立て直された。最もそのうちの何割もが硝子庭園の改修費とガラスの収集に消えているのだが。とはいえ、このままでは落ちぶれ貴族どころか貧乏人に真っ逆さまである、というところをリオンが救ったのだから、三人がリオンをあからさまにいじめることは随分と減った。今日も義姉が可憐な装いを纏っていられるのはリオンのおかげである。  ナタリーはアンブロワーズから目を逸らしながら、「とにかく……」と話を戻す。 「お姉様が待っているから早く行くことね。私はちょっと市場に行って来るわ」 「分かりました、すぐ行きます。お義姉様もお気を付けて行ってらっしゃいませ」 「行ってきます。あぁ、あとね。貴方、その鳩ちゃんと躾けておきなさいよね。私はこの家の人間で、オマエは使用人なのだから。それじゃ」  村の方へ向かっていくナタリーに向かってアンブロワーズはあかんべーをした。すぐさまリオンに小突かれる。 「お義母様達の言いなりになれとは言わない。でも、怒らせて何か起こっても私は知らないよ。その羽を毟られたくなかったらほどほどにしておきな」 「俺は使用人になった覚えはありませんよ。貴方だけの魔法使いですからね。困った時にはこのアンブロワーズお兄さんを頼っておくれ、俺のかわいいリオン」  春の陽気の中でも真っ白なローブを羽織って着込んでいるアンブロワーズの背で、真っ白な翼が揺れた。  困った時には白い鳥が助けてくれるとリオンの母は語っていた。そして実際に、リオンの前にアンブロワーズは現れた。曰く、彼は母が助けた白い鳥の息子なのだという。 「継母や義姉達にもしもまたいじめられたら俺に教えてくださいね。アイツらの目の一つや二つ、俺が潰してやりますから。こう、ハシバミの枝でちょちょいと」 「え、怖……。やめてよね……」  平然と残酷なことを言ってのけるアンブロワーズに若干引き気味になりながら、リオンは玄関のドアを開けた。リビングに向かうと、上の義姉であるクロエが難しそうな顔をしてドレスを抱えていた。 「灰かぶり! 遅いぞ!」 「何の約束をしていましたっけ」 「ドレスの飾りが取れてしまっている。あと、ボタンも。付けておきなさいと昨日頼んだのだけれど忘れたのか」 「あぁー、なんか、言っていたかも? やっておきます」  クロエはソファから立ち上がると、リオンにドレスを押し付けた。大量のフリルとレースを強引に持たされて、リオンは視界を塞がれてしまう。  どちらかというとかわいい印象のナタリーに対し、クロエは格好いいという言葉の方が似合う女性である。リオンへの仕打ちなどの内面の性格の悪さを知らない近隣の村の娘達からは、恋にも似た憧れの眼差しを向けられている。
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