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「癖というか、習慣というか、体に染みついてしまっているんだと思います。自分を低く小さく見せることが。何年も灰を被っていたから、それが当たり前になっていて」
「わたくしはどんなリオンだって好きよ。貴方がいたいようにいてくれればいいわ。でもね、わたくしと一緒に誰かの前に現れなきゃならない時はしっかりしていてね。これは王女命令よ。わたくしが良くても、みんながそうとは限らないから」
「尽力します」
困った笑顔のまま、リオンはお茶を一口飲む。
今度のお茶会で靴の手がかりが見付かるといいね、お茶会が純粋に楽しみだね、というような話をして、今日のお茶会はお開きになった。
クロードと共に馬車に乗り込み、ドミニクはモーントル学園の寮へ帰って行く。それを見送って自分もそろそろ帰ろうとしたところで、リオンはシャルロットに袖を摘ままれた。
「シャルロット、様?」
「わたくし、少し不安……。少しだけ、ね。でも、貴方がいてくれるから安心できるわ」
顔にかかった髪を払って、シャルロットはリオンを見上げる。
「わたくしがこれからするのは、とんでもない大我が侭。家族や、知り合いだけでなく、国までをも巻き込む我が侭よ。酷い王女だと言う人もいるでしょう。それでも、わたくしは我が侭を押し通す」
宝石のような紫色の瞳が真っ直ぐにリオンのことを見据える。つい先ほどまで不安を滲ませていた表情は凛とした王女然としたものになっていた。
シャルロットはリオンの手を取って、きゅっと優しく握る。手袋越しに触れるシャルロットの手は柔らかくて温かい。包んで覆ったかさかさの手で、リオンはシャルロットの手を握り返す。
「わたくしは、貴方を必ず手に入れるわ。あの日貴方が落としてしまったガラスの靴をその足に履かせて。……ドミニク様との婚約を破棄して貴方を選びたいというのはわたくしの我が侭。そして、貴方のことをわたくしのものにしようというのも、たぶん、わたくしの我が侭なのよ。貴方をこの我が侭に付き合わせているのも、わたくしの我が侭だわ。わたくしは、この我が侭で全て思い通りにしてやるのよ」
そこまで言って、シャルロットはほんの少しだけ表情を暗くした。
「高慢で愚かだと言ってくれたっていいのよ」
「シャルロット様、私は」
銀色の長い髪が風に揺れる。今日のリボンはシャルロットの瞳と同じ紫色。祈るように、リオンはシャルロットの手を包み込む。
「私は……。私は、貴女が高慢で愚かだとは思っていません。思っていたら、今、ここにはいませんから」
「リオン……」
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