verre-2 我が侭な覚悟

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「元気な貴女が好きです。飛んだり跳ねたりするところも、かわいいです。前を歩いている貴方がこちらを振り向くと、私は思わず手を伸ばしてしまう。あの頃から、ずっと。私は、貴女に恋焦がれている。貴女という人が、私は好きです。私は、自分の決めた相手が高慢で愚かだと思いたくはありません。もしも、そう思う時が来たならば……。貴女が、悪い王女と呼ばれるような存在になってしまったら。その時は私が貴女を正しい道へ連れ戻します。ちょっぴり我が侭な、かわいい貴女に。だから、大丈夫ですよ」  ふふん、とシャルロットが笑う。そして、リオンの手を優しく振り解いた。  花の香りが広がった。大きく動いたシャルロットのドレスから、華やかで甘い香りがふわりとリオンの元へ届けられる。リオンの前にはドレスという花が咲き、その中にちょこんとシャルロットが座っている。シャルロットは片膝を着いた姿勢で、リオンを見上げて手を取った。 「それならとっても安心ね。信じているわ、わたくしの王子様」  そっと包んだ手を軽く引いて、シャルロットはリオンの手袋に口を付けた。 「っ、シャルロット……様……っ!?」  リオンは目を白黒させて声を上げる。  絵本の王子様が王女様にするように、本物の王女様が自分の王子様と思う相手の手の甲に口付けをしたのだ。戸惑うリオンを見て、シャルロットはいたずらっぽく笑った。 「リオン、ありがとう。大好きよ」 「わ、私も……です」  シャルロットはもう一度リオンの手に軽く顔を寄せてから、ゆっくり立ち上がった。くるりと体の向きを変え、目に付いた適当な使用人に馬車を用意するように言う。  ふわふわの金色の髪と、ひらひらの青いドレス。そんな後ろ姿をぼんやりと眺めながら、リオンはシャルロットに触れられた左手を右手で撫でる。手袋越しの感触がまだ残っているように感じた。気を抜くと途端に顔が不気味に笑い出してしまいそうで、引き攣ったすまし顔を貼り付けた。  やがて、リオン達の前に馬車が到着した。王宮にある馬車の中では比較的落ち着いたデザインの馬車。美しい白馬が引き、格式の高そうな身形の御者が手綱を握っている。 「リオン、またね」 「はい、また」  ドアが閉まる。小さく手を振って、シャルロットはリオンを見送った。  走り去っていく馬車と、それを見るシャルロット。その様子を王宮の窓からジョルジュが見下ろしていた。 「ジョルジュはあの子のことをどう思っているのかしら」 「良き友人です。いい人ですよ、リオン殿は」 「そう」  ジョルジュは窓に背を向ける。 「母上は彼を認めてはくれないのですか?」  訊ねられた王妃は優雅に浮かべた綺麗な笑顔のまま、表情を変えない。
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