Verre-3 王女様のおもてなし

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Verre-3 王女様のおもてなし

 六月三日。建国記念日を一週間後に控えた王宮に、いくつもの馬車が到着する。降車するのは貴族達だ。王宮の使用人達の案内で、彼らは中庭に通される。  美しい花々が咲き誇る華やかな中庭にはテーブルが並べられていた。そんな中庭の入り口に、黄色いドレス姿のシャルロットがちょこんと立っている。 「ごきげんよう、皆様。お待ちしておりましたわ」  シャルロットは笑顔で貴族達を出迎える。  王女主催のお茶会、一日目。  招待された貴族達が大方揃ったところで、シャルロットは挨拶をして回り始めた。皆様ようこそ。こんにちは。ごきげんよう。オレンジ色のグラデーションになっている黄色いドレスを揺らしながら、貴族達に優雅に声をかける。  リオンは中庭の隅で侍女達と一緒にシャルロットを見守っていた。王女として動いている彼女の姿を見ていると、自然と自分の背筋も伸びた。  リオンがガラスの君だったということは公にはなっていない。オール侯爵と仲の良い貴族は不審げにリオンのことを見ているが、それ以外は「おや、サンドール子爵の御子息も呼ばれたんだな」という様子である。  あの中に珍しい靴を持っている者がいるのだろうか。声をかけられるとリオンはにこやかに応対するが、貴族達のことを一人一人よく見て確認することは怠らない。 「一生懸命見ても持ち物なんて見えませんよ」 「分かってるよ」  後方で控えていたアンブロワーズが一歩前に出て、リオンの両肩に手を置いた。 「これで見付からなかったらどうします?」 「万事休す、かな」  国王の前で六月九日までにガラスの靴を見付けると言った。見付けられなければ、シャルロットとの話はなかったことにするとリオンは宣言している。  森でヴォルフガングに会う前も、靴を持っているらしい貴族をどう探すか考えている間も、お茶会を開くと決めた後も、ずっと靴を探し続けて来た。ガラス細工の出品されるオークションに参加し、質屋を巡り、街の人々に話を聞いた。しかし、ガラスの靴は見付からなかった。一年半探し続けても見付からなかった物をこの一ヶ月程度で見付けることなど不可能だったのかもしれない。  仮にお茶会で珍しい靴を持っている貴族が見付からなかった、もしくは見付かったとしてもその靴がガラスの靴ではなかった場合。その時は残りの一週間リオン達は可能な限り走り回ることになる。もしも、最後まで頑張って見付けられなかったら。 「リオン」  背後にいるアンブロワーズにはリオンの表情など見えていない。しかし、僅かに不安を滲ませるリオンの様子が分かっているかのように優しく声をかけた。肩に置かれていた手がいったん離され、そして後ろから覆い被さるように腕が回されてリオンを抱き寄せる。 「困ったら俺に言ってくださいね。俺は貴方の魔法使いですから」  耳元で囁く声に、リオンは小さく頷く。
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