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国王との約束を違えることはできない。リオンには退く道しかない。しかし、シャルロットは諦めないだろう。もちろんリオンもおとなしく退くつもりではないが、表立って大きく動くことは難しくなる。困った時には、きっとこの魔法使いが助けてくれるだろう。
リオンはアンブロワーズの腕に軽く触れる。すると、それに応えるように抱く力が強くなった。
「ありがとう、素敵な魔法使いさん」
リオンは感謝を述べつつ腕を振り解く。
「お茶会が始まったら、俺はちょっと抜けますね」
「用事でもあるの」
「リオンと王女様はここから離れられないでしょうから、俺が外で調べて来ますよ。中庭の外にいる使用人や、馬車と一緒に待機している使用人がいるはずですから。彼らにそれとなく訊いてみます」
「一人で大丈夫か」
王宮の中を一人でうろついていたら、また何かあるのではないか。心配するリオンに、アンブロワーズは歓喜の色を浮かべる。
「俺のことをそんなに気にかけてくれるんですね! ありがとうございます。嬉しいです」
「……うん」
「これだけ大勢の人がいるんだから大丈夫でしょう。こんなところで変なことをする人なんていませんよ」
「そうかな……?」
「そうですよ。あ、王女様がこちらを見ていますね。そろそろ始まるんじゃないですか。ほら、行ってあげて」
アンブロワーズはリオンに体の向きを変えさせ、ぽんと背中を押す。押されてよろめきながら数歩前に出たリオンは軽くアンブロワーズのことを振り向き、にこやかに手を振る彼に手を振り返してからシャルロットに歩み寄った。
挨拶を一通り済ませたらしいシャルロットは、中庭を見渡すことのできる位置にやや緊張した面持ちで立っていた。リオンが近付くと少し安心した様子になる。
「リオン、魔法使いさんは」
「靴のことを使用人達にそれとなく訊いて回ってくれるらしいです」
「そう。それじゃあ、わたくし達もわたくし達のやることをやりましょうか」
大きく息を吸って、吐く。シャルロットは目を閉じてゆっくりと深呼吸をしてから、静かに目を開けた。
「皆様、本日はお忙しい中わたくしのお茶会にお越しいただきありがとうございます。短い時間ですが、忙しない日々の中で心安らぐひと時をお過ごしいただければと思います。今回のために用意したお茶や、ささやかな食事を準備しております。休憩所だと思ってのんびりして行ってくださいな」
王女の挨拶にぱらぱらと拍手が上がる。
拍手の間からぴょんと姿を現したのは、どこかの貴族が連れて来た小さな令嬢である。父親らしき貴族の慌てる声を気にせずに、令嬢はシャルロットにとてとてと近付いて声をかけた。
「王女様、お菓子もある?」
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